火山灰の堆積状況から黒曜石の年代を探ろうと、谷状になった切通し面で土壌サンプリングを試みる調査隊
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黒い輝きが美しい黒曜石。旧石器や縄文時代に加工された跡が見られる石もある
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伊万里湾を望む腰岳の頂上で、黒曜石の運搬ルートに思いをはせる一行
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山頂から西北西の位置で確認された黒曜石の露頭
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黒曜石の加工を実演する愛称「岩永トロプス」こと岩永雅彦さん
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 円すい形の美しい姿で「伊万里富士」と呼ばれる伊万里市の腰岳(こしだけ)。西日本随一の黒曜石の産地として知られ、伊万里湾に向かって開けるふもとには1万年以上前からの遺跡が点在する。神秘的に輝く黒曜石のルーツと先史時代の営みを徹底解明せよ−。壮大なミッションを胸に13〜14日、考古学、地理学、地質学のエキスパートと学生たちによる調査隊「腰岳黒曜石原産地研究グループ」の約20人が山に分け入った。

 黒曜石はガラス質の火山岩で、流紋岩質のマグマが急冷されて生まれる。割ると鋭利な断面ができ、旧石器〜縄文時代に刃物や武器に加工された。腰岳の黒曜石は特に上質で、朝鮮半島や沖縄にも運ばれたことが分かっている。

 調査隊の踏査は2014年に始まった。わずかに先行研究があったが、全容解明にはほど遠い状態だった。奈良文化財研究所(奈良市)の芝康次郎さん(38)を隊長に5年間で15回の踏査を重ね、山頂から標高200メートル地点まで279カ所を歩いて標本を採取した。「腰岳と運命をともにしてもよい」。芝隊長の熱意は並々ならず、地元の伊万里市や有田町、多久市、佐世保市のほか全国各地から文化財関係者や研究者が集結。「面白そう」と九大などの学生にも輪が広がった。

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 今回は4班に分かれて調査し、地中の火山灰の堆積状況から腰岳の成り立ちを推定する作業に着手した。山中にある修道院近くの谷間状の切通し面から約15層の土壌を採取し、火山灰考古学研究所(前橋市)の早田勉所長(59)=長崎県松浦市出身=に分析を依頼。現場に立ち会った早田所長は「一見したところ、黒ボク土やアカホヤの土が見える」と指摘した。アカホヤは7300年前の南九州沖の大噴火でできた火山灰層で、年代特定の手がかりになるという。

 島根大の亀井敦志教授(48、地質学)の班は山頂まで到達し、伊万里湾を望む壮大な眺めに黒曜石の運搬ルートを描いた。黒曜石の露頭で原石も採取し、亀井教授は「これまでの採取分と合わせて蛍光エックス線分析にかける」と話す。

 芝隊長によると腰岳の黒曜石は「地点によって石の“顔つき”が違う」といい、調査隊は加工前の原石を表面形状で次のように分類して呼んでいる。きめ細かく透明度が高い石は「キメハダ」。これに筋が入ると「キメスジ」、ざらざら粗い表面の「サメハダ」、発泡の痕跡がある「ゴツゴツ」。名前が付くとだんだん石が愛嬌(あいきょう)を帯びてくるから不思議なもの。石器に加工されている石でも、芝隊長は破断面をひと目見ただけで年代や用途を解説する。石たちがたちまち先史時代に通じ、雄弁に語りだすからやめられない。

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 調査の合間に、黒曜石を石器に加工する実演があった。「石器作りが趣味」という多久市教育委員会の岩永雅彦さん(54)が黒曜石にハンマーストーンを打ち付け、器用に剥いでいく。「皮なめしをしても、腰岳の黒曜石の切れ味は抜群。先史時代、いかにブランドだったかが分かる」。石器を知り尽くしている男だからこそ、その言には実(じつ)がある。

 最後には芝隊長と九州大学考古学研究室の学生一行がふもとの鈴桶(すずおけ)遺跡を歩いた。石刃(せきじん)などに加工された無数の黒曜石がきらめく森で学生たちは歓声を上げ、先史時代の人々の声が一緒にこだまするかのようだ。

 今調査では参考資料として安山岩の採取も行い、各分析の結果を見ながら、今後も腰岳黒曜石の基礎的かつ多角的な考察を進めていくという。

2019/4/18 06:18
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