2019年5月19日 6時0分
文春オンライン

 かつてスーパーカーへの愛を体現した男は、その幻影を売る犯罪者に成り果てていた。警視庁麻布署は5月9日、イタリアの高級外車「フェラーリ」の限定車を販売すると偽り、計約2億5000万円を騙し取ったとして、元カーディーラーの吉田栄一容疑者(57)ら2人の男を逮捕した。警視庁担当記者がその顛末を語る。

「吉田らはモナコの50代資産家男性に、世界で500台しかない『ラ・フェラーリ』を『特別なルートで仕入れることができる』と嘘をつき、16年までに4回にわたり代金を受け取った。しかし、2年経っても納品されないので男性が不審に思い、同署に相談していました。吉田は18年にもポルシェの限定車『ポルシェ918』を売ると言って、8500万円をだまし取った疑いでも起訴されています」

 ラ・フェラーリはフェラーリ初のハイブリッド車で、現在は3〜4億円で取引されるマニア垂涎(すいぜん)の車だ。ポルシェ918も同様で、素人がおいそれと入手できるものではない。だが、吉田には「特別なルート」があると思わせるだけの経歴が備わっていた。

吉田は“伝説の走り屋”として知られるカリスマだった
「吉田は『伝説の走り屋』として、カーマニアの間では知らない者のいない存在でした。高速道路などの公道で2、300キロのスピードを出して競い合うカーレースが一部で熱狂を集めていた70〜80年代に、自らチームを率いて参戦していた。ポルシェの本部に何度も改造を依頼してブラッシュアップしたという、小豆色の独特のカラーリングが施された愛車『ポルシェ911』は特に語り草で、ミニカーで再現されて販売されたほどです」(同前)

 吉田は車雑誌のインタビューなどにもよく登場していたが、露出は活字に止まらない。公道でのカーレースを描いた累計1700万部超の人気漫画「湾岸ミッドナイト」にも登場。主人公のライバルが乗る黒いポルシェ「ブラックバード」のモデルが吉田のポルシェだったという。

 だが、そのカリスマをもってしても“スーパーカー冬の時代”は乗り切れなかった。捜査関係者は「金は業績不振だった事業の借金返済に充てていたようだ」と語る。

 車雑誌ではスピード違反の武勇伝を語るなど、遵法意識の欠如が垣間見えた吉田。彼に憧れたカーマニアたちの信頼を裏切った罪は重い。

http://news.livedoor.com/lite/article_detail/16481211/
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