◆ 「行ってらっしゃいと伝えたばかり」バス停の娘に切り傷

 通学途中の小学生や大人を含む十数人が、包丁を持った男に突然襲われた。川崎市多摩区で28日朝に起きた殺傷事件。路上には血だらけのけが人が横たわり、次々に搬送された。騒然とする現場に、子どもの安否を案じる保護者らが駆けつけた。

現場は私立カリタス小学校のスクールバスが止まるバス停付近だった。

 1年生の娘がいる男性は午前8時ごろ、妻から「娘が刺されたようだ」との連絡があった。バス停へ向かうと、その場にいた娘は唇に切り傷があり、ガーゼが当てられていた。バッグや制服には血が付いていた。

 男性はこの日もいつも通り、自宅近くのバス停まで娘を送っていた。「『行ってらっしゃい』と伝えたばかりだったのに。まさかこんなことが起きるとは」

 同校に1年生が通う母親は事件発生後、子どもの携帯電話のGPS(全地球測位システム)を確認すると、発生10分ほど前に子どもが現場にいたことがわかった。その後、学校側から無事だと知らされた。母親は涙ぐみながら、「無事だったけど、複雑な気持ちです」と言葉少なに語った。

 同校は午前9時20分ごろ、保護者に緊急連絡メールで「本日は休校といたします。保護者の皆さまは学校にお迎えにきてください」と連絡。直後から次々と保護者が来校して子どもを連れ、急ぎ足で帰宅した。娘と手をつないでいた母親は、「引き取りに来ました」と言葉少なに話した。娘と抱き合った後、うつむいたまま無言で車に乗り込む女性もいた。

 3年生の男子児童(8)を迎えに来た川崎市の父親(50)は「ニュースを見て驚いた。しばらくして担任の先生から、子どもは無事だと電話があったので大丈夫だと分かってはいたが、顔を見てホッとした」。1年生の娘を迎えに来た男性も「娘の顔を見たときは無事で安心しましたが、ショックです。もう少し登校が遅くなっていたら、被害者が自分の子だったかもしれない」と話した。

 現場近くに住むタクシー運転手の男性(52)によると、現場近くのコンビニ前にも複数のけが人がおり、救急隊員が心肺蘇生をしていた。小学生らしい半ズボンの男の子もストレッチャーに乗せられ、救急車で運ばれていったという。

 「うちの子が見当たらない」と捜している母親や、ランドセルを背負っておびえている様子の児童もいたという。男性は「登戸は平和な街で、こんな事件が起こるとは思っていなかった。どんな理由があっても許せない」と憤った。

 現場近くの自営業の男性は、鳴り続くサイレンを聞くうちに「尋常じゃない。何かあった」と感じた。現場にはられた規制線の近くに複数の児童らを見かけたが、「何があったかわからないような、びっくりした表情でした」と話す。別の中年男性は、「この辺りはいつも多くの人が通るので、とても怖い」と話した。

■ 官房長官「大変痛ましい事案」

 神奈川県私学振興課の担当者は28日朝、事件を報道で知り、カリタス小学校に電話した。しばらく通話中だったが9時半ごろに電話がつながり、校長から「保護者と児童で複数の負傷者がいるようだ」との説明があったという。担当者は「学校に問い合わせが殺到していて、こちらに連絡する余裕がなかったのではないか」と話す。

 菅義偉官房長官は同日午前の記者会見で「大変痛ましい事案だ。警察が被疑者の男を確保し、事件の全容解明について捜査を行っているという報告を受けている」と述べた。

 柴山昌彦文部科学相も、「通学路の安全点検とともに、不審者情報をしっかりと共有、周知をしていくことなど政府をあげてしっかりとした対策をとっていく必要がある」と会見で語った。

朝日新聞 2019年5月28日12時40分
https://www.asahi.com/articles/ASM5X34N1M5XUTIL00K.html