※夜の政治
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安倍政権は産業界からの強い要請を受け、大量の外国人労働者を受け入れるという事実上の移民政策に舵を切った。一方、米トランプ大統領は、移民の受け入れについて、高技能・高学歴の人を優先する方針を打ち出している。(後略)

国内においても、高度移民のみを受け入れた方がよいとの意見も聞かれるが、そもそも高度人材に限定して移民を受け入れることなどできるのだろうか。

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世間一般では、米国は移民の国であり、無条件に多くの移民を受け入れているというイメージがある。米国が毎年、多数の移民を受け入れているのは事実であり、2017年は112万人に永住権が認められた。だが、米国が移住しやすい国なのかというと実はそうではない。米国の永住権(一般にグリーンカードと呼ばれる)を取得するのはもちろんのこと、ビザを申請して長期滞在するのもそう簡単なことではない。

米国でグリーンカードを取得するもっとも手っ取り早い方法は、すでに米国に永住している人が家族を呼び寄せるケースである。当然だが、この場合には家族に米国人がいないと対象にならない。次に多いのは米国を基盤にビジネスをしている人が永住権を申請するケースだが、これには優先順位が設定されており、卓越した能力を持つ人(スポーツ選手、著名学者など)、高学歴者、富裕層(投資家)など、米国経済への貢献度が高い人が優先される仕組みとなっている。

一般的なビジネスパーソンでも雇用主のサポートがあれば申請できるが、企業の経営者や管理職、特殊技能を持つ社員などが優先されるので、米国で仕事をしているからといって、誰でも永住が許可されるわけではない。

時々、テレビのバラエティ番組などで、芸能人が米国在住と紹介されるケースがあるが、本当に永住できているケースは極めて希であり、それどころか、しっかりとしたビザを取得しないまま滞在しているケースも多いといわれる。「海外に住もう」といったテーマの記事は多いが、現実は厳しいと思ったほうがよい。

一般的なイメージとは正反対に、米国は簡単に移住できる国ではないのだが、トランプ氏は移民へのハードルをさらに引き上げようとしている。トランプ氏が検討しているプランは、家族の呼び寄せ条件を厳しくし、一方で高学歴者の受け入れ比率を引き上げるというものである。

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移民を受け入れる際、高学歴者を優先するという国は意外と多い。実は日本も、安倍政権が本格的な移民政策に舵を切るまでは、高度人材に限って受け入れるという方針だった。しかも日本の場合、ビザの取得はそれほど難しくなく、永住に関する明確な判断基準もなかったことから、長期にわたって日本に住み、日本社会に定着している外国人は、比較的に容易に永住権を取得できていた。

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つまり、日本という国はもともと選択的に移民を受け入れる国であり、永住権の取得もそれほど困難でなかったということになる。移民の国というイメージがあるにもかかわらず、もともとも移住について厳しい制限がある米国とは対照的に、閉鎖的なイメージがある一方で、現実の制度はそれほど厳しくなかったのである。

これは何を意味しているだろうか。

日本において移民が政治問題になっていなかったのは、日本に移住を希望する外国人がそれほど多くなかったからという理由に尽きる。一方、米国は世界中の人が移住を希望するので、すでに米国で生活している米国人との軋轢が常に発生する。オーストラリアやニュージーランドもかなり選択的に移民を受け入れているが、それができるのも両国への移住を希望する人が多いからである。

こうした国々が、世界中から人を吸い寄せているのは、経済的な豊かさに加え、社会が外国人に対して寛容であり、労働市場がオープンだからである。日本は制度上、移住は容易だったが、社会の豊かさ、寛容さ、オープン度合いという点で外国人にとって魅力的ではなく、結果的に移民の問題は発生していなかった。

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日本は外国人労働者の受け入れについて本格的な方針転換を行ったので、単純労働に従事する大量の移民を受け入れる国となった。これには賛否両論があったが、立法措置によって正式に政策が決断されたという事実は重い。

民主国家における立法措置というのは、国民がこの政策を選択したことと同義であり、わたしたちは結果に対して責任を負う必要がある。移民を大量に受け入れる以上、彼等の人権を保護するのは、わたしたちの責務であることを自覚する必要があるだろう。(加谷珪一)

6/18(火) 18:57配信
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