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ドイツで移民擁護の政治家殺害 極右による犯行か
2019年6月18日 18:51

【ベルリン=石川潤】ドイツで移民擁護を公言していた政治家が射殺され、15日にネオナチとの関係が疑われる容疑者の男が逮捕された。テロ事件などを扱う独連邦検察庁が17日、本格的な捜査を始めた。インターネット上では極右によるものとみられる射殺された政治家をあざけるような内容の投稿が多く見られ、大統領が強く非難する異例の展開になっている。

殺害されたのは独中部、ヘッセン州カッセルの地方政治家で、メルケル首相と同じキリスト教民主同盟(CDU)に所属するワルター・リュブケ氏(65)だ。移民受け入れは倫理的に正しいと訴えたため、以前から殺害予告を受けていた。同氏は2日、自宅のテラスで死亡しているのが見つかった。至近距離から撃たれたとみられている。

事件は15日、45歳の男が逮捕されたことで急展開した。独メディアは容疑者とネオナチのつながりを相次ぎ報じている。リュブケ氏が政治的な理由で殺害されたとの見方が強まっている。連邦検察庁も17日、事件の背景に極右的な動機があるとみて直接捜査に乗り出したことを明らかにした。

事件の詳細はまだ明らかでないが、政治的な主張の違いを理由に極右が政治家の殺害に及んだとすれば、事態は深刻だ。さらに、リュブケ氏の死を悼むどころか喜ぶような動きが一部にみられることも、ドイツ社会に衝撃を与えている。

「卑劣なヤツにとどめがさされた」。リュブケ氏の死後、こんな投稿がインターネット上を飛び交った。シュタインマイヤー大統領が「忌まわしい。どこからみても嫌悪を催す」と批判したが、憎悪をまき散らす動きに歯止めがかからない。

ドイツでは2015年以降、シリアなどから計100万人を超える移民が流入し、容認派と反対派の対立が深まった。ナチス時代の記憶が残り、極右への抵抗感が強かったドイツで、反移民を唱える政党が17年秋の選挙で第3党に躍進した。移民受け入れを進めたメルケル氏への批判が強まり、同氏が与党党首を退任する事態となった。

最近では反移民を唱える政党の支持率も頭打ちとなり、極右の伸長にブレーキが掛かり始めたとみられていた。だが、今回の事件とその後の展開は、極右の主張が社会に根深く浸透している現実を映し出している。さらなる過激化への懸念も強まりつつある。