https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/19/062000359/
 かつて、ハイエナは極寒の北極圏にも暮らしていたことが、カナダ北西部で発見された歯の化石から判明した。
ハイエナたちは約100万年前の草原でトナカイやマンモスを捕まえたり、それらの死肉を食べたりしていたようだ。

 オンラインジャーナル「Open Quaternary」に6月18日付けで発表された論文によると、1970年代にカナダのユーコン準州オールドクロウ川流域で
発掘された化石2点は、これまでで最も北に位置するハイエナの痕跡だという。
従来は同地から約4000キロ南下した米国カンザス州の化石が最北端だった。

 ユーコン準州で発掘された歯の化石はいずれも、絶滅したハイエナの仲間Chasmaporthetes属の個体。
この絶滅ハイエナは、140万年前から80万年前にかけて、今より過酷だった北極圏に暮らしていたと考えられている。
研究を率いた米ニューヨーク州立大学バッファロー校の古生物学者ジャック・ツェン氏は
「これらの化石が発掘されたことで、ハイエナがいたとみられる地理的、生物学的な生息域が広がりました」と話す。
この発見は同時に、古代のハイエナがユーラシア大陸から極寒のベーリング地峡を渡って北米大陸に達した証拠でもある。
「旅を終えて息絶えたかもしれませんが、一帯を通過していたことは確かです」

■先史時代には70種のハイエナがいた
 現生のハイエナは4種で、生息域はほぼアフリカだ(一部アジアにも生息)。低地の暖かく乾燥した環境に適応している。
しかし、先史時代には約70種のハイエナが生息し、北半球の全域に分布していたことが知られている。
「現生種だけを見ても、ハイエナの多様性の10%以下しかわかりません」とツェン氏は話す。

 ツェン氏によれば、Chasmaporthetes属は現代のハイエナより長い四肢をもち、おそらく足の速さも狩りの腕も勝っていたという。
死肉を食べ、強力な歯と顎で骨をかみ砕いていただけでなく、トナカイやウマ、さらにはマンモスなど、北極圏の動物を捕まえていた可能性もある。
「おとなのマンモスを仕留めていたとは思いません。それはすべての肉食動物にとって偉業ですから」とツェン氏は話す。
「しかし、現代のブチハイエナは若いゾウを倒すことができます。Chasmaporthetes属の狩りを解明するうえで、この能力は参考になると思います」

 ツェン氏らはさらに、北極圏のハイエナはマンモスやケブカサイと同じように毛深く、現代のホッキョクウサギやホッキョクギツネと同様、
季節に応じて毛の色を変えていたのではないかと考えている。
「北極圏のハイエナが毛むくじゃらで、雪の中でも狩りができるよう、冬毛をまとっていたとしても不思議ではありません」

■「長年の仮説が裏づけられました」
 ハイエナはユーラシア大陸で進化したが、Chasmaporthetes属は約500万年前に北米大陸へと渡り、メキシコまで拡大した系統に属する。
その系統が約100万年前まで存続し、化石の発掘につながった。
これまでに北米で発見されたハイエナの化石証拠としては、いずれもかなり現代に近い時代のものだ。

 研究者たちの間では長年、ハイエナはベーリング地峡を渡り、北米大陸に到達したと考えられてきた。
海面が低かった時代、シベリアとアラスカは地続きだった。
ただ、ベーリング地峡を渡ることができるほどハイエナが北極圏の環境に適応していたという確かな証拠が見つかったのは、今回が初めてだ。

 米バンダービルト大学で肉食動物の化石を研究するラリサ・デサンティス氏は
「ハイエナが北極圏で生き延び、この移動ルートを使っていたことがわかり、本当にワクワクしています」と述べている。
デサンティス氏は今回の研究に参加していない。
「長年の仮説がようやく裏づけられました…ハイエナたちがベーリング地峡からやって来て、北米大陸の南部まで進出したという仮説です」

 カナダ、トロント大学の古生物学者アシュリー・レイノルズ氏は「更新世の肉食動物たちがこれまでよりはるかに北で次々と見つかっています」と話す。
レイノルズ氏は最近、カナダにサーベルタイガーの一種スミロドンが存在した証拠を初めて示した。
「肉食動物は生態系のとても重要な一部ですが、化石記録がほとんどありません。そのため、すべての新しい発見が貴重です」