神奈川県川崎市で、戦時中に作られた防空壕(ごう)を利用して栽培するキクラゲが話題を集めている。終戦から74年、当時の記憶を宿す戦下の遺構が、一風変わった形で現代によみがえった。

 生産するのは小山仁美さん(51)。建設会社の社長も務めており、6年ほど前に自宅近くの山林を購入したところ、竹林に埋もれた大きな穴を発見した。近所の人に尋ねると、旧日本軍が掘った防空壕(奥行き約13メートル、高さ約2・5メートル、幅約3メートル)だという。

 関連する文献をたどっていくと、終戦前年の1944年夏、防空壕の近くの常念寺に、同市にあった大島国民学校の女子児童が疎開していた記録が見つかった。児童らがつづった手記からは、空襲の恐怖や日々の空腹に苦しむ当時の厳しい現状が伝わってきた。

 戦争の悲惨さを改めて痛感した小山さんは、貴重な遺構を守ろうと、防空壕を埋め戻さずに保全することを決意。建設のノウハウを生かし、内側を鉄骨やコンクリートで固めた他、一部は当時の形が残るように工夫し、整備した。

 工事が完了した防空壕内の活用法を模索していたところ、地域の生産者から「きのこを栽培したらどうか」とアドバイスを受けた。農業の経験はなかったものの、シイタケをはじめ、さまざまな品目や栽培法に挑戦。結果、1年を通じて気温が安定する防空壕は、キクラゲの栽培に適していることが分かった。現在はキクラゲだけを月に約200キロ生産している。

 収穫したキクラゲは「防空壕きくらげ」として、JAセレサ川崎の農産物直売所「セレサモス」麻生、宮前両店で70グラム250円で販売。小山さんは「家族で食べながら、戦争や平和について考えるきっかけになれば」と話している。

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