■「ホラアナグマ」が消えたのは、寒冷化よりも人類の台頭が原因だった

ネアンデルタール人がヨーロッパに暮らしていたころ、身の周りには常に危険があった。マンモスやケブカサイ、サーベルタイガー、そして洞窟には、重さが最大900キロにもなるホラアナグマが住んでいたからだ。

 今日、最大の疑問は、こうした大型動物たちがなぜ姿を消してしまったのかということだ。一部の科学者たちは、約2万6500年前にピークを迎えた最終氷期の極大期のせいだろうと考えている。一方、狩りに長けた新しい人類、ホモ・サピエンスの登場によって絶滅に追いやられたのではと考える科学者たちもいる。

 8月15日付けの学術誌「Scientific Reports」に掲載された最新の論文によると、ホラアナグマの場合、ホモ・サピエンス(現生人類)が絶滅の最大の原因となった可能性が高い。

「私たちホモ・サピエンスのヨーロッパ進出さえなかったなら、ホラアナグマは今も存在していてもおかしくないと思います」。そう話すのは、共著者の一人でドイツのエバーハルト・カール大学テュービンゲンの古生物学者、エルヴェ・ボクヘーレンズ氏だ。30年間、ホラアナグマの骨を調査してきた研究者である。

 今回の結果は、現代のヒグマが置かれた状況についても示唆を与えてくれる。ヒグマの個体数は今のところ安定しているが、人が増え、温暖化が進むなかで危機に陥る可能性がある。

■ホラアナグマの集団

 ボクヘーレンズ氏と、スイス、チューリッヒ大学のヴェレーナ・シューネマン氏が率いる研究チームは、ヨーロッパ中から59頭のホラアナグマの骨を集め、そこからミトコンドリアDNAを抽出した。ミトコンドリアDNAは母親のみから受け継がれ、異なる地域に暮らす動物たちの間の遺伝的関係を明らかにできるほか、過去の集団サイズも推定できる。

「モデルを使った計算によれば、ある時期の化石から得られたミトコンドリアDNAが多様であればあるほど、その頃の集団サイズは大きかったのだろうと推測できます。そこから、あらゆる時点でのクマの個体数を推測することができます」とボクヘーレンズ氏は話す。

そうして解析をおこなったところ、ホラアナグマの減少が始まったのは約4万年前であると、データが示していた。絶滅の原因とされてきた最終氷期が始まるはるか前のことだ。これは同時に、ホラアナグマはそれより前の氷河期をいくつも生き延びてきたことも示している。ホラアナグマの数が減少傾向に転じたのは、氷河期ではなく、ホモ・サピエンスがヨーロッパに広がり始めたまさにその頃だったのだ。

「これより前にホモ・サピエンスがヨーロッパに進出していた証拠もありますが、本格的にヨーロッパ大陸を覆い始めたのは、ホラアナグマが減少し始めた頃なのです」と、ボクヘーレンズ氏は言う。

おそらくはネアンデルタール人もホラアナグマを狩っていただろうが、ホモ・サピエンスのほうが優れた狩猟技術を持ち、進んで洞穴に入っていっただろう、とボクヘーレンズ氏は考えている。やがてホモ・サピエンスの数はネアンデルタール人の最盛期の人口をもしのぎ、ホラアナグマ絶滅の運命は決定づけられたのである。

 今回の研究は「ミトコンドリアDNAから得られるすべての情報が活用されたものです」と、ニュージーランド、オタゴ大学の古生物学者、マイケル・ナップ氏は言う。同氏は今回の研究には携わっていないが、少し前の論文において、より限られたデータセットから同じような結論を導き出している。

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