男の身体から脳が切り離された。
脳神経は後々センサーやマジックハンドを接続するために残された。
脳を培養液に浸すと活発な脳波が観測され、手術は見事成功。
培養層の中で、脳は安楽そうに、ぷかぷかとたゆたっているように見えた。
麻酔が切れて、培養水槽の中で意識を取り戻した時、男を襲ったのは 激痛 だった。
末端の細い神経線維がほんの一本断ち切られただけでも、人間は目のくらむほどの痛みを感じる。
脳だけとなった男が味わっているのは、その 何十倍・何百倍の痛み だった。
全ての抹消神経が断ち切られているからだ。
目のくらむような痛み、と言ったところで、彼には最早目は無かった。
悲鳴を上げたくても、発声器官が無かった。
のたうち回るための五体が無かった。
この世のものと思えぬその苦しみを、他人に訴える手段は一つもなかった。
男は、 痛みだけを感じ続ける存在でしかなかった 。