実験室で培養した脳から、人のものに似た電気的活動を初めて検出したとする研究論文が29日、発表された。
この研究結果は、神経学的状態のモデル化、さらには人の大脳皮質(灰白質)の発達に関する根本的理解への道を開くものだという。

豆粒大の「培養脳」に、まだ明らかになっていない。
今回の革新的進展をもたらした研究チームは、検出された電気的活動が早産児のものに似ていることから意識はないとの見方を示しているが、確かなことは言えないという。
これはこの研究分野に新たな倫理的次元を開く問題だ。

成体幹細胞から作製されるいわゆる「脳オルガノイド(細胞集合体)」が登場してから約10年となるが、機能的な神経細胞ネットワークを発達させたのは今回が初めてだ。
米カリフォルニア大学サンディエゴ校(University of California, San Diego)の生物学者アリソン・ムオトリ(Alysson Muotri)氏と研究チームが医学誌「セル・プレス(Cell Press)」で発表した論文によると、今回の飛躍的進歩は二つの要因によって可能となったという。

一つ目の要因は、培地製法の最適化などを含む幹細胞培養過程の向上だ。
二つ目は、子宮の中で赤ちゃんの脳が発達するのと同じように、神経細胞に発達のための十分な時間を単に与えることだ。
これについてムオトリ氏は、「人間の最初期の神経発達はゲノム(全遺伝情報)に符号化されている」と説明している。

研究チームがオルガノイドから突発的に放出される脳波を検出し始めたのは、約2か月が経過してからだった。
脳波信号は最初まばらで、みな同じ周波数で発せられた。

これは非常に未成熟な人の脳にみられるパターンだ。
だが成長するにつれて、異なる周波数で脳波が発せられ、信号がより定期的に出現するようになった。
これはオルガノイドの神経細胞ネットワークの発達が進んだことを示唆している。

■同様の成長軌跡

研究チームは次に、この脳波パターンを初期発達段階にある人の脳の脳波パターンと比較した。
比較作業には、早産児39人から記録した脳波活動を使い訓練した機械学習アルゴリズムが用いられた。

その結果、脳オルガノイドがペトリ皿の中で発達した期間についての予測を正確に行うことができた。
これは、自然環境の脳と同様の成長軌跡を脳オルガノイドもたどることを示唆するものだ。

新生児がどの発達段階で意識を獲得するのか、そして「意識」の定義については、どちらも科学者らの間で論争の的となっている。
新生児の脳活動を調査した2013年のフランスの研究では、新生児が見せられた顔の画像について考え始めるのは生後5か月からであり、その映像を一時的な「作業記憶」に保存するとみられることが明らかになった。
研究ではこの能力を知覚的意識と関連付けている。

■応用と倫理

脳オルガノイドの応用範囲として考えられるのは、てんかんや自閉症などの神経学的疾患患者の幹細胞から脳オルガノイドを作製することにより、疾患のモデル化を向上させられることだ。
治療法の発見につながるかもしれない。

研究チームは、より基本的な問題も解明したいとしている。
ムオトリ氏によると、脳オルガノイドの発達は約9〜10か月で止まるが、その理由がまだ明らかになっていないのだという。

「この理由を知りたい。内部への栄養物の供給を可能にする血管新生系がないからなのか、それとも(感覚入力の形での)刺激が単に欠けているだけなのか」──ムオトリ氏は両方の仮説を検証したいとしている。
そして今後は、脳オルガノイドが人の脳に近づくにつれ、あらゆる種類の倫理的問題が浮上するのは避けられないとしながら、この研究分野を合意された制限と規制の対象とすることを提案している。

▼写真 「脳オルガノイド」の断面図。皮質板の形成が確認できる。色分けは脳細胞の種類。
米カリフォルニア大学サンディエゴ校のムオトリ研究所提供
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