家族が殺害された経験を語るムカガサナ・シシリアさん=ルワンダで2019年8月8日、宮川佐知子撮影
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虐殺に加担した経験を語るヌクンディエ・タシアンさん=ルワンダで2019年8月8日、宮川佐知子撮影
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 ルワンダでは1994年の虐殺後、各地で被害者と加害者の和解の取り組みが進められ、試行錯誤の中、時間をかけて積み重ねられてきた。一方、和解を推進する政府は和解達成度を「92%」とし、「安全や安定を取り戻した」と胸を張るが、どこまで国民の心情を反映しているのか。25年たった今、「許し」の声をたどった。

 首都キガリの南にあるムビョ村(約50世帯)は、キリスト教系非営利組織が政府の協力で運営する「和解村」だ。村内には、被害者と服役後の加害者らが共存する。

 妻子と暮らすヌクンディエ・タシアンさん(70)は地域のリーダーから殺害を指示され、「拒否すれば家族も殺す」と脅され、ツチの男性3人を仲間と襲撃した。悔やむ一方、「虐殺に加担したのは自分の意思ではない」との思いもあった。

 服役中、遺族に「許しを請います。悪いリーダーがいなかったら私はやっていなかった」と手紙を書いた。出所後、直接謝罪して遺体の場所を教えた。遺族からは「許します」と告げられたという。タシアンさんは「被害者と神に許しを求めてきた。善い行いを重ねれば、悪事を置き換えられると思った」と静かに語った。

 被害者側にも「許し」を語る人がいた。同じ村のムカガサナ・シシリアさんは18歳の時に肉親を失った。近所の男たちに追いかけられ、祖母2人が殺された。奪われた財産は後に返還されたが「授乳中に殺されたおばが映画の一コマのように思い浮かび、苦しかった」。キリスト教への信仰を支えに約10年後「許すことで心の傷はいやされる」と悟った。虐殺の記憶に「もう苦痛はない」と答えた。

 国家統合和解委員会は5年おきに抽出調査を実施。2015年の調査では、和解を達成したと感じる人は92%で前回より10ポイント上昇。指導者へ信頼を寄せる人は95%▽和解の取り組みへの参加度は91%――と高い数字が並んだ。同委員会のヌダイサバ・フィデル事務局長は虐殺について地域共同体で裁く「ガチャチャ裁判」が終了したことなどを挙げ「今は国の発展を維持する段階だ」と話した。

 一方、ガチャチャ裁判に関しては、冤罪(えんざい)を助長したなどと海外の人権団体から批判の声も上がっている。

 東京外国語大の武内進一教授(アフリカ研究)は「国の和解政策で丸く収まった、とのストーリーの中で、表立って異を唱えにくいのでは」と考察。虐殺後、隣国でのフツ側の被害を示す国連報告もあり「政権が、ツチだけでなくさまざまな人が犠牲になったことや、『人道に対する罪』に向き合わない限り、本当の和解のステップは進まない」と課題を示した。【宮川佐知子】

毎日新聞 2019年9月7日
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