「食欲がない」。
9日朝、芳満さんは元気がなく、玉の汗を流していた。
朝食はパンと牛乳しか口にせず、昼ごろまで隣の
ホテル事務所内で過ごしたが、汗が止まらず、食欲もない。
「暑くて事務所におれないわ」。芳満さんはそう言い残すと、
昼すぎ、自宅2階の自室のベッドで横になった。
窓を開け、うちわで暑さをしのいだが、
室内は「蒸し風呂状態だった」(ウノさん)。

翌10日朝、芳満さんは真っ赤な顔で「氷水が飲みたい」
と訴えた。だが、水は出ず、コンビニの飲み物は完売。
知人にもらった飲み水もすぐに尽きた。
エアコンがきいた場所に行くよう促したが、
周辺のホテルなどはどこも満室だった。

午後2時ごろ、氷を包んだタオルを首に巻いて寝ていた
芳満さんを気にしながら、ウノさんは宿泊客の
夕食作りのため、隣のホテルに向かった。

午後5時すぎ、首に当てていた氷を取り換えようと
自宅に戻ると、芳満さんの姿が見えなかった。
家中を探すと、トイレの前でうつぶせで倒れていた。
意識がなく、呼吸もしていない。
顔は赤く腫れ、唇は色を失っていた。
「起きて、起きて。しっかりして」。
ホテルの宿泊客に助けを求め、すぐに救急車を
呼んだが、心肺停止状態。
医師から「午後3〜4時に熱中症で死亡した」
と伝えられた。

「電気も水も出ない状況は初めて。
自家発電も備えておらず、
クーラーがないのが一番きつかった。
無理を言ってでも、近くのクーラーが
きいている所へ連れて行くべきだった」。
ウノさんは涙目で語った。室内の温度は、
11日午前0時の時点でも32度だったという。