■今世紀末には内陸部からの流出が定説の倍に、積雪の再凍結で保水力が低下

2019年7月下旬、ヨーロッパを襲った今夏2度目の熱波がグリーンランドに移動し、氷床表面の半分以上を解かし始めた。これほど広範囲の氷が解けるのは2012年以来のことだった。

 気候変動で増えているこうした大規模な融解の影響は、ただ単にグリーンランドの氷が大量に解けて流出するだけにとどまらない。9月18日付けで学術誌「Nature」に発表された論文によると、残っている氷が板氷のように密になって、水をより吸収しにくくなっているという。そして、この板氷が急速に拡大しており、今世紀末までには、グリーンランド内陸部からの水の流出量が従来の試算のほぼ倍になることが明らかになった。

 この高密度の氷の厚板は「アイススラブ」と呼ばれ、広さ数百平方キロ、厚さ15メートルにもなることがある。グリーンランドの氷床表面は本来、水が浸み込める雪に覆われているが、融解と再凍結が頻繁になるにつれ、アイススラブが広がりつつある。アイススラブは水を通さないので、解けた水は、氷床の中に浸み込まずに地上を流れ、最終的には海に流出する。

 2001年から2014年にかけて、アイススラブの総面積は、およそ6万5000平方キロに拡大した。これは北海道の面積の約8割に匹敵する大きさだ。

 アイススラブの拡大が続くと、グリーンランド表層の「流出域」はますます広がり、それによって地球の海面上昇に対する氷床の影響が高まり、おそらく予期せぬ変化を引き起こす、と論文の著者は予測している。

「私たちは、氷床の状態が急変するのを目の前で見ているのです。恐ろしいことです」と論文著者である米コロラド大学ボルダー校の雪氷学者マイク・マクフェリン氏は話す。

■水を通さない「カメの甲羅」

 グリーンランドは水を通さない氷の塊だと思われがちだ。だが実際には、氷床の表層の約80%はかき氷のようなものだ。新雪の粉雪が、「フィルン」と呼ばれる厚く積もった古い雪の層を覆っている。フィルンは徐々に圧縮され氷河になるが、それでも多くの空隙が存在する。この最上部が夏に解けると、液体の水は、厚さ30メートルのスポンジのようなフィルンに浸透して吸収される。

 ところが2012年の春、グリーンランド南西部のフィルンをボーリング調査していたマクフェリン氏の研究チームは、フィルンが吸水性を失いつつあるかもしれないことに初めて気がついた。その冬に積もったばかりの雪のすぐ下に、圧縮された高密度の氷の層が、複数の地点から次々に見つかったのだ。それは、まるでフィルンを覆う「カメの甲羅」ができたかのようだった、と同氏は言う。

 この甲羅は雪解け水がフィルンに浸透するのを邪魔しているのではないか、と研究チームはすぐに疑った。

「2012年5月のことでした」とマクフェリン氏は振り返る。「そして、7月には記録的な氷の融解が起こり、その答えはあっという間に出たのです」

 その夏、グリーンランドのこの地域で、表面を流れる水が記録上初めて観測された。

 5月の発見の重大性に気づいた研究チームは、氷の甲羅がどれほど広がっているかを確かめるため、より広範囲でコアを採取することにした。その結果、アイススラブは40キロにわたって広がり、地域の融解水の流出に広範な影響を及ぼしていることがわかった。

 この調査結果は2016年に学術誌「Nature Climate Change」に掲載され、新たな研究の出発点となった。マクフェリン氏の研究チームは今回、地上調査の結果にNASAの研究ミッション「オペレーション・アイスブリッジ」のレーダー観測データを加え、グリーンランド全域にわたる表層アイススラブの地図を初めて作成した。

 結果をモデル化したところ、アイススラブの形成と拡大は、2000年代初頭に始まったと考えられる。今回の新たな分析によると、2014年時点で、グリーンランドの4%ほどがアイススラブに覆われていたという。アイススラブは、夏に大規模な融解が起きるたびに厚くなり、より寒冷な内陸の高地に広がっていく。

「夏の大量融解が数年ごとに起こるたびに、フィルンは多大な影響を受けています」とマクフェリン氏は話す。「それにより、このプロセス全体が内陸部までかなり急速に進行しているのです」

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