エゾシカ、国後島に生息 流氷に乗り? 生態系一気に破壊の恐れ
毎日新聞 2019年9月28日 08時58分(最終更新 9月28日 08時58分)
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板状の流氷に乗ったエゾシカの雄4頭=羅臼町の根室海峡で2007年ごろ撮影、羅臼海上保安署提供

 北方四島で長い間、生息が確認されていなかったエゾシカが国後島で生息していることが、ビザなし専門家交流で訪れた「陸棲(りくせい)哺乳類調査専門家交流訪問団」の調査で分かった。北海道では激増したエゾシカによる農林業被害や生態系への影響が深刻化している。団長を務めた大舘智志・北海道大学助教は「小さな国後島ではひとたび急増すると、植生の破壊が一気に進みかねない」と話し、日露による共同モニタリングの必要性を訴えた。【本間浩昭】

 クリリスキー自然保護区のエフゲーニ・コズロフスキー・科学担当副所長への聞き取りでは、国後島で現在、生息が確認されているのは少なくとも2頭で、いずれも雌。2017年に雌1頭が確認され、その後も継続して同島オホーツク海側北部の保護区内で目撃されているという。

 最近では今月4日のヘリコプター調査で確認され、10日には足跡が見つかり、そして17日の聞き取りで「最低2頭はいる」と話したという。これ以外に、16年に雄の死体も確認されているというが、いずれもどのような経路で上陸したかは不明。対岸の知床半島から流氷に乗るか泳いで渡った可能性が高いという。
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エゾシカの生息が確認された国後島の手つかずの生態系を調査する専門家=国後島の一菱内湖で2019年9月21日、NPO法人北の海の動物センター提供

 国後島の対岸の北海道ではエゾシカの食害が深刻化しているが、「島」という閉じられた生態系でも極めて苦い経験がある。洞爺湖中島(4・85平方キロ)では1957〜65年に観光業者が3頭(雄1頭、雌2頭)を導入した結果、個体数が約400頭まで激増。森林や草原が丸裸にされ、餓死も相次ぎ個体群の崩壊が起きた。

 大舘団長は「向こうの研究者は『たった2頭』と思っているかもしれないが、将来大変なことになる可能性がある」と指摘し、共同のモニタリングの必要性を強調した。

 そもそも北方四島にはエゾシカは分布していなかった。道東での激増を受けて国後島などでは80年代に計5頭が漂着したが、いずれも「弱っていたので食べた」とされ、以降は目撃情報が途絶えていた。