2019/09/30 1:00

中国メディアの記者や編集者を対象に、習近平国家主席(共産党総書記)の政治思想に関するテストが全国で実施される。落第すると記者証の更新を認めないというから穏やかではない。試験に使うのは習氏の発言を集めた携帯アプリ「学習強国」で、かつて文化大革命の紅衛兵たちがこぞって手にした毛沢東語録にも例えられる。中国国内の報道は党の宣伝部門が厳しく統制しているが、中国の記者たちは習氏への忠誠心まで要求されている。(北京 西見由章)

 党中央宣伝部のメディア監督部門は8月23日、国内の報道機関向けに出した通知で、「学習強国」による試験に合格した者しか記者証を発行しないと言明した。試験は10月上旬に行われる。

 中国メディアによると、9月末ごろには一部の報道機関を対象に「試行試験」が行われるという。香港紙サウスチャイナ・モーニング・ポストは匿名の関係者の話として、「試行試験」には北京の官製メディアの記者や編集者ら約1万人が参加すると伝えた。
 試験内容は(1)習近平による新時代の中国の特色ある社会主義思想(2)習近平総書記の宣伝思想工作に関する重要思想(3)マルクス主義の報道観(4)報道の倫理と政策法規(5)報道の取材編集業務−の5分野だ。
 試験は各報道機関が指定した場所と時間で、各自のスマートフォンを使って行われる。時間は1時間半。120点満点で80点以上が合格だ。落第した場合は1回だけ追試が認められる。
 多くの報道関係者から不安の声が上がっているが、一部メディアによると難易度は高くはなく、多くは選択問題で「基本的な知識」を問われるという。

■「学習強国」とはどのようなアプリなのか、実際に使ってみた。

 中国の公的アプリなどをインストールした場合、スマホやPC内のデータを抜かれる危険性が指摘される。このため現在は使用していない古いスマホにインストールすると、まず名前とパスワードの登録を求められた。電話番号や位置情報なども把握される。
 主な内容は、習近平氏が各地で行った講演や発言の記事・映像などをまとめたニュースアプリだ。もともと官製メディアのサイトは共産党の宣伝色が濃いが、それがさらに凝縮された感じだ。
 通常のニュースアプリと違うのは、本人の「累積点数」が表示されること。アプリを開いたり、記事や映像を閲覧するたびに点数が蓄積され、習氏や党への“忠誠度”が数値化されていく。サウスチャイナ・モーニング・ポストによると、当局側がアプリを使っている人の氏名や点数などを把握できる仕組みという。
 アプリには「試験問題」コーナーもある。例えば「習近平総書記は、○○は民族振興と社会の進歩の重要な礎であると指摘した」の○○を埋めよ、といった具合だ(正答は教育)。

「学習強国」は党中央宣伝部が企画し、中国の電子商取引(EC)最大手アリババグループが開発。今年1月に運用が始まった。党は当初、全国約9000万人の党員全員に対して同アプリのダウンロードと実名登録を義務付けたが、反発や不満が多く、義務化は取り消したとされる。

 そもそも共産党員になるには、政治思想に関するリポートを長期間にわたり提出することなどが要求されており、暗記問題が中心となる今回の試験は記者にとってさほど負担ではないだろう。また上層部に表面的に忠誠を誓う「面従腹背」は中国の役人たちが得意とするところだ。

 となると、今回の「テスト」の真の狙いは、メディア関係者に漏れなく「学習強国」をダウンロードさせ、その累積点数に加えてSNS上のやりとりなどスマホ内の情報にアクセスし、記者の管理を強化することかもしれない。あるいは、中央宣伝部が「仕事」を懸命にやっているというアピールか。いずれにせよ生産的な取り組みとは思えない。
https://www.sankei.com/world/news/190930/wor1909300002-n1.html

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