奄美の希少クワガタ、違法「わな」で死ぬ…密売目的か
2019/10/07 09:07
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アマミシカクワガタ=奄美野鳥の会・山室一樹理事提供

 政府が2020年の世界自然遺産登録を目指している鹿児島県・奄美大島で7月、昆虫用の違法な「わな」にかかり、希少種のクワガタを含む100匹以上の昆虫が死んでいるのが見つかった。8月には別の地区でも違法なわなが発見された。密売目的の可能性があり、県警は自然公園法違反容疑で捜査を始めた。

◇ ストッキングにバナナやパイナップル

 環境省奄美野生生物保護センターによると、7月上旬、動植物の採集が禁止されている特別保護地区の山中で、木の枝にくくりつけられた複数の電灯を住民が見つけた。昆虫を光で誘って木にぶら下げた板にぶつけ、そのまま薬品が入った容器に落とすわなだった。計10個設置されており、標本として昆虫の採集を狙ったものとみられる。

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 現場に出向いた同センター職員が、容器内でカミキリムシやトンボなど100匹以上の死骸を確認。奄美や徳之島の固有種・アマミシカクワガタも数匹含まれていた。

 同センターや地元自治体は、夜間の合同パトロールを実施。8月中旬には、木にくくりつけたストッキングの中にバナナやパイナップルを入れたわなを十数個見つけた。香りで昆虫を誘い出し、生け捕りにするタイプで、発見した場所は特別保護地区外だったが、わななどの設置には許可が必要な地域だった。同様のわなは17年夏にも約100個が確認されている。

 環境省は今年7月に見つかったわなについて、鹿児島県警に捜査を要請。県警奄美署は自然公園法違反の疑いで調べている。同署は「希少種を狙った悪質な犯行で、関係機関と情報を共有しながら捜査する」としている。違反者には6か月以下の懲役または50万円以下の罰金が科される。

◇ 地元自治体、赤外線カメラで監視網

 この問題を受けて、地元自治体は今年度内に特別保護地区を中心に赤外線カメラなどを30台設置することを決めた。国有林を管理する林野庁も6台を導入する計画だ。

 同センターの千葉康人・世界自然遺産調整専門官は「違法採集が横行すれば、世界自然遺産の登録に向けて障害になりかねない」と危機感を募らせる。奄美大島では4月、希少種のアマミイシカワガエルを無許可で捕獲したとして、ペットショップ店長らが県警などに逮捕される事件も起きている。

◇ 採集禁止もネットで取引

 アマミシカクワガタは、地元の奄美市など五つの自治体が13年、条例で採集を禁止した。一方でネットでは禁止前に捕獲され、繁殖を重ねたとされるものが1匹数千円程度で取引されている。

 相次ぐわなの発見について、国立環境研究所生態リスク評価・対策研究室の五箇公一室長は「国内では希少なクワガタの市場価値が高く、密売を目的とした犯行だろう」と指摘する。そのうえで「固有種は島内の環境でしか生息できないので、大量採集されれば絶滅の恐れもある。監視網を強化し、厳正に対処すべきだ」と語った。