今年のクリスマスは、どこの家庭でも「楽しいクリスマス」とはいかないかもしれない。こと気候変動問題となると、ディケンズの「クリスマス・キャロル」の主人公スクルージのように若い世代はけんか腰になって、家族がクリスマスに会うために飛行機に乗った総距離がどれほどで、サンタクロースの贈り物がどれだけの二酸化炭素(CO2)排出を伴ったかと批判する一方、肉をほおばったり薪をくべたりするなど背徳的行為だとなじるだろうからだ。





肉を食べないとする消費者が増える中、大手ハンバーガー店も植物由来の原材料で作った商品の提供を余儀なくされている=ロイター

このようにして楽しいクリスマスを興ざめさせる若者たちは、温暖化ガス排出量が増大するのに伴い、環境を重視しない悪者たちに対抗する手段として、「恥」や「嫌悪」を使うようになった。その標的は両親だけではない。今や全産業が対象だ。

エネルギー効率悪い飛行機使うは「飛び恥」


エネルギー効率の良い鉄道を使わずに、CO2を大量に排出する飛行機を利用するのは恥ずべき行為だとする「飛び恥」運動や、ファストファッションのボイコット、肉を全く口にしない食生活など、一部の若い消費者が大企業と、企業を規制する立場にある政治家に強い影響力を及ぼすようになっている。

彼らを狂信的と一蹴することはたやすい。こうした若者の多くは欧米人で、裕福な家庭で育ち、十分に教育を受けており、社会正義への意識が強い。これに対し圧倒的に数が多い一般の人は、来月の給料で生活をやりくりできるか考えるのでいっぱいで、環境問題どころではない。

また世界中の航空会社やアパレルメーカー、食品各社が今後何十年にもわたり成長を見込んでいる新興国の消費者が、恥を手段に使う欧米の若者の懸念をどれだけ共有するかは不透明だ。

とはいえ中国のような消費大国でも気候問題への意識は高まりつつある。プラスチックや毛皮の消費に反対する運動も、ネットでのキャンペーンが追い風となって一定の盛り上がりを見せている。

加えて気候変動への懸念だけでなく、次の大きな波を見逃すまいとする投資家が少しずつ増えていることも環境重視の機運を高めている。ファッションと食品の業界では、自動車業界で米テスラがやったように、持続可能性をブランド化する新世代のスタートアップ企業が増えている。一部の企業の環境配慮は見せかけだけかもしれない。だが、大企業に創造的破壊をもたらしているのは確かだ。

「飛び恥」意識し、利用減らした人37%


例えば「飛び恥」。全世界の排出量の約2%を占める飛行機を使うことに罪悪感を感じないのかと個人に呼びかけたのが「飛び恥」の始まりだ。だが、今や利用者全員が悪いといった集団的責任に近いものに変容している。

一部の航空会社、特に欧州北部の航空各社の受け止め方は深刻だ。「飛び恥」の運動が生まれたスウェーデンでは1年以上、航空機利用者が減り続けている(景気減速による減少も恐らくある)。KLMオランダ航空は消費者に「責任ある飛行機の利用」を呼びかけている。アムステルダムからブリュッセルに行くなら飛行機より電車の方が早いと言い出すほどだ(スウェーデンには「飛び恥」から派生した「列車自慢」という言葉まである)。

空の旅が環境に与える影響への懸念は広がっている。スイスの金融大手UBSが9日に発表した主要国8カ国を対象にした調査では、過去1年に「飛び恥」を意識して航空機利用を減らした人が37%に上った。航空機利用に強い懸念を示した国の一つが中国だった。この懸念は投資家にも広がっている。米シティバンクは航空業界による現在の需要予測を「不安なほど高い」とみる。つまり、「飛び恥」は今後、企業の評価額にさえ影響しかねない。

2019年12月16日 23:00  日本経済新聞 続きは↓で
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