政府が20日決定した2020年度予算案は社会保障関係費の急増が目を引く。35兆8608億円で19年度に比べ5.1%増だ。10月に消費税率を10%に引き上げた財源を高等教育や保育・幼児教育の無償化に充てたためだ。高齢化に伴う伸びは鈍化したものの、新たに75歳になる高齢者が一時的に少ないという特殊要因にすぎない。公共事業も高水準を維持し、歳出膨張は加速する一方だ。

社会保障関係費のうち、最も伸びが高かったのが少子化対策費だ。3兆387億円で28.9%増える。全体の増加分の約4割を占める。20年4月に始まる高等教育の無償化に4882億円、19年10月に開始した保育・幼児教育の無償化に3410億円を投じる。消費増税で得る財源を使った大型の再分配政策だ。

安倍政権は「全世代型社会保障」を掲げる。教育の無償化はその柱だ。少子化を止めるには現役世代が子どもを産み育てやすくする環境づくりが欠かせない一方、政府は巨額の借金を抱える。次世代に負担を先送りしないよう、歳出抑制にも目配りする必要がある。

その目安となるのが高齢化などに伴う伸び(自然増)だ。20年度は約4100億円で、当初想定よりも1200億円伸びを抑えた。19年度の自然増は約4800億円だった。

一見、社会保障費の伸びを抑制できたように見えるが、主に(1)薬の公定価格を実勢に合わせ引き下げ(2)介護保険で所得の高い会社員の保険料を段階的に引き上げ――という2つで抑制分を捻出した。新たな対策を打ったわけではない。医師らの技術料である診療報酬は引き上げ、国費と患者負担は増える。

20年度に75歳になる高齢者は終戦期の生まれで前後の世代に比べ人口が少ない。自然増がこれまでより抑えられることが当初から見込まれており、改革機運は盛り上がらなかった。

政府は19日にまとめた社会保障改革の中間報告で22年度までに一定以上の所得のある75歳以上の高齢者に医療の窓口負担を2割に引き上げると明記した。与党などに慎重論があったなかでの改革案づくりにエネルギーが割かれた面はある。

ただ、社会保障以外の歳出を見渡しても抑制しようという機運は乏しい。公共事業関係費は10年ぶりの高水準となった19年度予算とほぼ同規模で、0.8%減の6兆8571億円を確保した。19年に相次いだ豪雨災害を受けて治水対策に手厚く配分した。激しさを増す自然災害への備えは欠かせないが、「国土強靱(きょうじん)化」を旗印にハード整備に偏りがちな点が否めない。

2019/12/20 10:23 日本経済新聞
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