愛知県阿久比町で東西に延びる町道「矢高横川線」で今年整備された区間のうち一部が完成から9カ月たった今も通行止めとなっている。通学路として予定されているにもかかわらず、交差点に信号機がないなどの理由で、地元住民が「危険」と強く反発しているためだ。町は県公安委員会に信号機設置を要望しているが設置条件を満たさないとして実現しておらず、開通のめどはたっていない。

 通行止めとなっているのは、新たに整備された約220メートルの道路のうち団地や新興住宅地に近い54メートル。一帯の区画整理事業の一環として、昨年6月に着工。関連工事を含め約7850万円をかけ、今年3月に完成した。

 当初は完成後の検査が終わり次第供用を開始する予定だったが、区間にある二つの交差点に信号機がないことなどから、住民からは「ここは緩い坂。下りの車はスピードが出る」「子どもが通学で利用するには危険」といった声が続出。町はこの区間の開通を延期し、通行止めとした。

 住民の要望を受け、町は県公安委員会に東側の交差点への信号設置を求めたが、警察庁制定の設置条件のうち「主道路のピーク時間往復交通量が300台以上」「隣接信号機からの距離が原則150メートル以上」をわずかに満たさなかった。町はその後も県や半田署などを通じて要望を続けているが、設置のめどは立たない。

 町は不通区間の両端を柵やパイロンでふさぎ「通行止め」の看板を設置。車両を近くの生活道路へ迂回(うかい)させている。地元では「裏道の交通量が増えて、かえって危険だ」と早期開通を求める声も少なくない。

 町は住民の意見をできるだけ拾おうと、町道付近の4学区で説明会や、8月から9月にかけてアンケートを実施。最近では、自治会ごとの意見を町へ提出してもらったという。ところが、一部住民からは「町は対応を住民に丸投げしている」と批判の声も上がる。

 竹内啓二町長は「当初から開通させることもできたが、住民の命に関わることだからこそ、地元住民を巻き込みながら1年近くかけて対応してきた」と説明。「年度内は関係各所へ信号の設置要望を徹底する。それでもだめなら、町道管理者として、安全策も含めて私が決断する」と話した。

 <新藤宗幸・千葉大名誉教授(行政学)の話> 7800万円もかけて造ったものをほっておくのは財政的にも非効率。町民の批判はある意味もっともだが、道路がもう完成しているのであれば、町側は住民からの指摘や要望を受けてからアクションを起こすのではなく、信号がない場合の歩行者の安全を維持するための代案を示すなど、住民に対して積極的に提案や説得を続けることが必要不可欠だ。

 <信号設置指針> 2015年に警察庁が制定し、各都道府県警察へ通達した。都道府県公安委員会が審査する。設置条件は(1)赤信号停止時にすれ違うための車道幅員が確保できる(2)歩行者が安全に横断待ちできる場の確保(3)主道路におけるピーク時の交通量が1時間あたり300台以上(4)隣接する信号機との距離が原則150メートル以上(5)交通の安全と円滑に支障なく、運転者や歩行者が信号を良好に視認できるように信号柱を設置できる−の5点。

 (高田みのり)

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2019年12月30日 10時00分 中日新聞
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