旧精神衛生法(現精神保健福祉法)に基づく精神科病院への長期入院や入院制度で人権を侵害された―として、群馬県太田市と鹿児島市の男性2人が、2020年春にも国に損害賠償を求めて提訴することが分かった。2人は諏訪郡富士見町の精神保健福祉士、東谷幸政さん(65)が代表を務める「精神医療国家賠償請求訴訟研究会」(事務局・東京)のメンバー。30日までに、それぞれの地元地裁に提訴する方針を固めた。長野県内で原告になる人は今のところいないが、県内関係者も訴訟が精神障害への偏見の払拭(ふっしょく)や、長期入院施策の見直しにつながることを期待する。

 東谷さんは、精神保健福祉士として精神科医療の現場に携わる中で、「精神障害者の地域での受け皿は全然足りず、長期入院患者は国策の被害者だ」と強く思ってきた。13年に全国の当事者や弁護士、精神科医らで研究会を結成。長期入院が常態化している構造を抜本的に変えるには、訴訟が必要―と考えた。

 提訴を予定しているのは、研究会の活動に賛同し、メンバーになった太田市の伊藤時男さん(68)と鹿児島市の堀辰也さん(39)。それぞれ前橋地裁と鹿児島地裁に提訴する見通しだ。

 仙台市出身の伊藤さんは16歳の頃に統合失調症と診断され、福島県大熊町で22歳から37年に及ぶ長期入院を経験。11年の東日本大震災後に病院を転々とした後に退院した。青年期から60代までを病院で過ごし、普通の人生を送れなかったとし、信濃毎日新聞の取材に「家庭も持てなかった」と無念さをにじませた。「症状が落ち着いているのに入院させられる『社会的入院』があまりに多い」と訴える。

 堀さんは愛知県内で働いていた時に統合失調症と診断され、10年に鹿児島市の実家に戻った。不眠が続き、母親の付き添いで訪れた同市内の精神科病院で入院が決まり、閉鎖病棟の「保護室」で2、3日隔離されたという。保護室に入れられた理由は分からず、取材に「屈辱で涙が止まらなかった」と話した。

 13年には、本人の同意なく家族と医師で決める「医療保護入院」を経験。処方薬を飲まないことを母に注意され、自宅の壁を殴ったのがきっかけで、2年5カ月にわたり入院させられた。面会できるのは母親だけで、他の家族や友人とは疎遠に。今は1人暮らしだ。訴訟によって当事者に対する病院職員の態度も改められればいいと考える。

 東谷さんは、長期入院は家族や友人との縁が切れ、病院でしか暮らせなくなる悪循環に陥ると指摘。「現状を抜本的に変えるための訴訟だ」と強調している。

(12月31日) 信毎web
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