スマホやパソコンに遺された故人の情報を「デジタル遺品」という。たとえば「スマホ」が遺された場合、遺族がロックを解除して、中を見ることはできるのか。フリー記者の古田雄介氏が取材した――。※本稿は、古田雄介『スマホの中身も「遺品」です デジタル相続入門』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

■あまりに強固で、非常時には困るセキュリティ

スマホの特徴として、そのセキュリティの堅牢さが挙げられます。

重要な情報が集まる機器なので、スマホのセキュリティは非常に強固です。大抵の機種で保存されるデータは暗号化され、特殊な鍵を用いて開かないと取り出せない作りになっています。パソコンのように物理的にストレージを取り出してほかにつなげる、といった方法も普通はとれません。

だから、パスワード入力や生体認証などでログインできるように設定しておけば、紛失したり盗難に遭ったりしても中身を見られる可能性はかなり抑えられます。さらに機種によっては何度もロック解除を試みると中身を消去する設定や、遠隔でスマホの位置情報を特定する設定も選べるので、使いこなせばトラブルが生じた後でも追跡して事態の悪化を防げます。

しかしそれらはすべて持ち主に向けられた機能です。遺族でもあっても他人は他人。指紋も顔も異なりますし、パスワードを知らなければ、ログインの壁を突破することは相当難しいでしょう。

強固なセキュリティは、非常時などには逆にとんでもなく高い壁になってしまう危険を持ち合わせています。

パスワードが分からなければ、第三者には開けない。その事実を全世界に知らしめたのが、2016年初頭にFBI、米連邦捜査局、がアップルに対して起こしたiPhoneをめぐる裁判です。

■あのFBIでも「たった1台のスマホ」が開けない

15年12月、武装した2人のテロリストにより、カリフォルニア州サンバーナーディーノの障害者支援福祉施設で銃乱射事件が発生し、14人の命が犠牲になりました。2人の犯人は銃撃戦の末に射殺されたものの、事件の背後にテロ組織の影が見えたため、FBIは彼らの遺品を丹念に調べました。そしてその遺品のひとつにiPhoneがあったのです。

しかしそのiPhoneのロックは、FBIの精鋭部隊の技術力をもってしても解除できませんでした。そこでFBIはiPhoneの製造元であるアップルにロックを解除するソフトウェアを提供することを要請しましたが、アップルはこれを拒否。結果として連邦裁判所で争うことになったのです。

実はアップルは個別のロック解除を過去に数十件実施した実績があり、意に沿うことは技術的に不可能ではありませんでした。しかし、ソフトウェアを作って提供しろという、いわばマスターキーの提供を求める要請だったので拒否した、という背景があったようです。


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2020年01月04日 11時15分 PRESIDENT Online
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