通常は地下にある燃料タンクを地上に設置する「地上タンク」型のガソリンスタンド(給油所)の実証実験地として、下伊那郡売木村が選ばれたことが4日、分かった。全国の中山間地域を中心に増えつつある「給油所過疎地」対策として経済産業省などが進める事業の一環で、地上タンクを使った本格的な給油所は全国初。地上タンク設置は消防法などで厳しく規制されており、飯田広域消防本部(飯田市)の承認・許認可が得られれば年内にも実証実験を始める方針。同省は、地上タンクの安全性を検証して給油所過疎地の解決につなげたい考えだ。

 ガソリンスタンドのタンクは、引火した場合の被害拡大を抑える目的などから、地下への埋設が義務づけられている。売木村に1カ所だけある給油所は住民有志が経営しているが、地下タンク使用期限が2022年12月に迫っている。更新に多額を要することなどから、村は、防火設備を整備した上で地上に据え付けるだけでよく、地下タンクと比べ維持更新費用が少ない地上タンク導入を検討。給油所設備などを提供する「コモタ」(横浜市)がタンクを置き、同省が支援する実証実験の候補地に手を挙げた。

 同省は中山間地などで給油所の閉鎖が相次ぐ中、多様な給油所の在り方を模索。18年度、浜松市天竜区でタンクローリーを使った「移動式給油所」の実証実験をした。標高約800メートルの盆地状の地形に集落が点在する村では「地上タンクで経営効率化を図ることができる」(成瀬輝男・同省資源エネルギー庁課長補佐)とし、売木村の協力も得られため実験地に適していると判断した。19年1月に村が依頼した都内のコンサルティング会社が行った地上タンクの整備費の試算は、埋設費や配管工事費などを少なくできるため、地下タンクよりも2千万円ほど安い約3千万円だった。

 計画によると、今年2月ごろに地上タンクを村に運び、飯田広域消防本部などによる安全検査を受ける。道の駅「南信州うるぎ」向かいにある民有地を村が借り、そこに給油所を設ける。給油ノズルや精算機などが付いた幅約6メートル、高さ2・8メートルのコンテナ型の地上タンクなど2台を用意し、レギュラーガソリンの他に軽油、灯油、ハイオクガソリンを提供する。

 コモタによると、欧州では地上タンクが一般的に使われており、今回、村で使うのはドイツ製。日本市場向けに油面計や災害時などに使う発電装置などの機能を加えた。燃料漏れを検知する装置や消火設備もあり、安全は確保できるという。村も地上タンクを囲む頑丈な防火壁を設置する考えだ。

 地上タンクは需要に応じ移設できる長所もある。清水秀樹村長は「ガソリンや灯油は必需品だが、給油所維持には担い手不足や経営難など厳しい現実がある。地上タンクで売木から新たな給油所の在り方を示したい」としている。

(1月5日) 信毎web
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