カメの研究に魅了された高校生がいる。農業分野に力を入れる愛知県愛西市の県立佐屋高校二年生、石井日香留(ひかる)さん(17)。イネを食い荒らす外来種のミシシッピアカミミガメ(通称ミドリガメ)を捕獲、駆除する環境保全活動にとどまらず、その命を農業に生かそうと独自に甲羅の肥料化に成功した。あくなき探究心に第一線の専門家も一目置く存在だ。 (深世古峻一)

 幼少期からカメが大好きで、用水路で捕まえては飼育していた石井さん。中学二年の時、地元であった催しに行き、カメ研究の第一人者で、愛知学泉大の矢部隆教授(動物生態学)の講演を聴いた。

 自ら声を掛けて交流が始まり、その年、矢部教授が主導する、研究者や環境保護団体などが意見交換する「日本カメ会議」に参加。ミドリガメが三十年ほど前から全国各地で大繁殖し、農作物を食い荒らすなど生態系を脅かす実態を知った。早速、夏休みにミドリガメを捕獲する自由研究に取り組み、研究の道に進みたいとの思いを強くした。

 高校進学後は「駆除するだけでなく、命を農業に生かせないか」と考え、肥料化に挑戦。家畜の骨を砕いて作る肥料「骨粉」をヒントに、安楽死させたミドリガメの甲羅をハンマーで砕き、チップ状にした。それをニンジンを育てるプランターにまくと、散布しなかった場所よりも可食部が一センチほど大きく育った。

 成果が出た一方で、ハンマーで硬い甲羅を砕くため労力が要る。そこで甲羅を一日、蒸し焼きにして炭化させれば「より簡単に砕くことができ、作業が楽になるのでは」とひらめいた。完成させた肥料を県埋蔵文化財センターに持ち込み、エックス線分析を実施。リン酸やカルシウムが多く含まれ、有機肥料として有効なことを証明した。現状では製品化のハードルは高いが、現在、その「カメ炭」を使い、イチゴやランを育てている。

 石井さんは「捕獲して飼う手段もあるが、ぎゅうぎゅうの環境で生き続けることがカメの幸せではない。命を循環させることが大切だ」と言い切る。矢部教授は「地道な作業を続ける根気強さがあり、彼と話しているとその真っすぐさに、私自身が勇気づけられる」と、研究姿勢を評価する。

 石井さんの夢はもちろんカメの研究者。「大学で生物多様性の向上につなげられる研究がしたい」と目を輝かせている

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