昨年2019年4月、楕円銀河「M87」の中心にある超大質量ブラックホールが直接撮像されたことが発表され話題を呼びました。このブラックホールからはジェットが噴出していることが知られていますが、その速度が最大で光速の99%を上回っているとする研究成果が発表されました。

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■見かけの速度が光速を超える「超光速運動」を起こすジェット
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おとめ座の方向およそ5500万光年先にあるM87の中心には太陽の65億倍というとてつもない質量を持った超大質量ブラックホールが存在しており、国際協力プロジェクト「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)」によって直接撮像された初のブラックホールとして知られています。

今回、Ralph Kraft氏(ハーバード・スミソニアン天体物理学センター)らの研究チームはM87の超大質量ブラックホールが噴出するジェットの速度を調べるために、NASAのX線観測衛星「チャンドラ」によって撮影された2012年と2017年の観測データを比較しました。

M87のジェットは地球の方向に近い角度で噴出されていることから、見かけの速度が光速を上回る「超光速運動」という現象を起こしています。研究チームによると、ジェットのなかでも超大質量ブラックホールに近い部分(ブラックホールからおよそ900光年ほどの範囲)にみられるX線を放つ2つの塊を観測すると、それぞれ光速の6.3倍と2.4倍で動いているように見えるといいます。

ただし、これはあくまでも見かけ上の速度で、実際に光の速度を超えているわけではありません。研究チームが詳しく分析した結果、ジェットの最大速度は光速の99%以上に達していることが明らかになりました。質量を持つ物質が到達しうる速度としては、ほぼ上限に達していると言えます。

今回の研究はEHTと同じ超大質量ブラックホールを対象としたものですが、EHTによって捉えられたブラックホールを取り囲む電磁波のリングと、ブラックホールが噴出する数千光年のジェット、両者のスケールには1億倍もの違いがあるといいます。吸い込みかけた物質の一部をほぼ光の速度で噴出してしまうブラックホール、その力強さを実感させられる研究成果です。
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