団塊ジュニア世代の貧困は救いようがない
 中村淳彦(以下、中村) 団塊ジュニア世代の男性の貧困問題は、恐らく人の生き死にに関わる問題になってくるでしょう。

 橘玲(以下、橘) それは「中年のひきこもり」問題に通じるところがありますね。就職氷河期で就職に失敗してフリーターになった人がかなりいました。フリーターでも20代ならやっていけるけれど、30代を超えると居場所がなくなってくる。周囲も「なんでこの年でアルバイトなんてやっているの? 」みたいな目で見るようになってきて。そうするとだんだん仕事に行きづらくなって、最終的には生活が立ち行かなくなって実家に戻る。そういうケースが増えています。

 中村 国の統計(内閣府統計、2018年2月実施)では40〜64歳のひきこもりは約61万人、実際には500万人くらいいるんじゃないかという話になっています。

 橘 いまは親の貯蓄や年金に頼って生きているけど、その親が死んだらどうなるのか、というのが「8050問題」です(編集部注:80代の親に頼って生きる50代の問題だから)。ひきこもりは3:1程度で圧倒的に男が多いそうなので、まさに団塊ジュニア世代の男性の貧困問題がこれから顕在化してきますね。

 中村 ひきこもりだった50代が、親が死んで生活できなくなったからといって仕事をするようにはならないだろうし、できる仕事もありません。どうなるのでしょう? 

 橘 川崎通り魔事件や京アニ放火事件など、中年のひきこもり男性が起こす事件が頻発するようになりました。女性の怒りは鬱病や自傷行為など内側に向く傾向にあるのですが、男性の怒りは時に暴力として外側に向くことがあるので、社会に対するインパクトは(男性の怒りの方が)大きくなりますね。

 中村 男は救いようがないなぁ…。

 橘 地方から東京に出ていって、離婚や失業で生計が成り立たなくなって40-50代で田舎の実家に帰るというケースは、男女共に増えているらしいです。ところが田舎に帰ってひきこもりになるのは、圧倒的に男性の方が多い。どうしてかというと、女性の場合は「年老いた両親の面倒を見るために帰ってきた親孝行な娘」と前向きな見られ方をするけれど、男性の場合はどんな噂を立てられるかわからない。だから両親が周囲にわからないように、家の中に閉じ込めるからなのだそうです。まさに座敷牢で、ますます社会復帰ができなくなってしまう。秋田県藤里町の取り組みが有名ですが――

 【参考記事】
●アンケートで分かったひきこもりは全国100万人。実態は500万人!?  

 
中村 そのレポートなら僕も読みました。丹念に調査してみたら、ひきこもりの人数が予想よりも一桁多かったというやつですよね? 

 橘 社会福祉協議会のリーダーの女性が指揮して一軒ずつ訪問して調べてみたら、人口3214人の村にひきもりが113人もいて、うち半数以上が40歳以上だった。最初はどの家庭も「ウチにはそんなの(ひきこもりの息子)はいねぇ」って隠そうとしたそうです。人口3000人余りの村ですら実数を把握するのにこれだけ大変だったわけですから、全国ではどれだけ深刻なのか想像もつきません。

 中村 以前に東洋経済オンラインで、貧困のために売春せざるをえなくなった若い女性のルポルタージュが掲載されたときのことです。その記事はヤフーニュースにも転載されたのですが、コメント欄が大荒れに荒れて大変だったんです。事情を理解しようともせず「自己責任だ」とか「売春をして恥ずかしくないのか」とか、敵視・妨害・嫌がらせが半端なかった。どうしてそんなに酷い罵声を浴びせられるのか理解できなかったのですが、ヤフーニュースにコメントを書き込んでいるのは圧倒的に40代男性が多いそうなんです。

 橘 ヤフーがそんなことを調べてるんですか? 

 中村 その記事にコメントを書いた人というわけではなく、ヤフーニュースにコメントを書き込む人の属性をヤフーが調べてわかったのです。継続調査でもなく一度きりでしたが、そういうことがわかりました。

 橘 ヤフーニュースのコメントの付き方を見ていると、午前中に配信されたニュースにもすぐにかなりの数のコメントが書き込まれています。普通の仕事をしていたらそんなことはことはできないから、仕事がない人とか不定期雇用の人たちが多いのでしょう。そういう人たちが気に入らないニュースを見つけると手厳しいコメントを書いて、それに対して「いいね」の評価がつくことが自尊心を保つ方法になっているということはあるかもしれません。


全文はソース元で
1/24(金) 21:00配信
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200124-00225594-dzai-bus_all