群れを離脱して一時的に単独で行動する雄ザル「ハナレザル」が近年、兵庫県姫路市内の人口密集地でも出没している。市に寄せられた目撃情報からは、沿岸部から市北部へと縦断した足取りが浮かび、小学校の校舎に1カ月間居着いたことも。同市林田町では昨年末、住民が襲われて軽傷を負う被害が発生し、1匹が殺処分された。兵庫県の専門機関は「県内ではサルが人にけがをさせる事例はここ数年なかった。都市部でもサルとの向き合い方を啓発する必要がある」と警告を発している。

■背後から爪

 「むき出しの牙を見せられ足がすくんだ」

 昨年12月、姫路市林田町六九谷の資材置き場で働く男性作業員(36)は、何かが近づく音を聞いて振り返り、資材の上に乗った興奮状態のサルと目が合った。

 「逃げなあかん」。男性が背中を向けた瞬間、後方から飛びつかれた。サルは直後に逃げたが、男性は腰を爪で引っかかれ、2針を縫うけがを負った。

 林田町では昨年11月ごろから人や車を威嚇するサルが出没。車のミラーやカーポート、民家の屋根などを破壊したほか、小学生を追いかけて服を引っ張って破るなど被害が拡大し、住民の危機感は高まっていた。

 市鳥獣対策室は「発情期と重なったため凶暴化した疑いがある」と話す。

■根城は校舎

 さらにさかのぼると、市内では2018年7月末からサルの目撃情報が急増し、約1年半の間に80件を超えた。目撃地点は18年11月〜19年7月に的形町、大塩町などの沿岸部から始まり、その後は四郷町や飾磨区妻鹿に拡大。8月には同区都倉や手柄など市中心部へ北上した後、10月ごろから林田町や安富町に移った。

 同市的形町の的形小学校では、19年6月にサル1匹が現れた。教員らが追い払おうとしたが、校舎屋上に登り、反撃してくるため手出しできなくなった。

 サルは約1カ月にわたって屋上を根城に生活。周囲の畑で野菜を食べ、川で水浴びをした。児童が追いかけられたこともあったという。校長は「姿を見たらすぐ児童を校舎に入れるなど安全確保に苦労した。怖がる子どもたちをよそ目に、サルは至って快適そうだった」と振り返る。

 目撃地点が移るとそれまでのエリアでは通報がぴたりとやんでおり、同室は「何匹か特定のサルが南から北へ市内を縦断したのでは」と推測する。

■捕獲を許可

 ニホンザルは群れで生活するが、雄は繁殖のために単体または2、3匹で群れを離れ、別の群れを目指す「ハナレザル」になることがある。時には100キロもの距離を移動するという。

 県森林動物研究センター(同県丹波市)の池田恭介森林動物専門員は「普通ならハナレザルは1週間も同じ場所にいない。姫路に現れた個体は行動も悪質で特異性が目立つ」と指摘する。

 サルは有害鳥獣駆除の対象に含まれず通常は捕獲できない。林田町では、けが人が発生したことで市は猟銃を使った捕獲を許可。猟友会のハンター延べ約100人が正月返上で出動。1月8日、体長60〜70センチの雄を捕獲、殺処分した。

 市内を縦断したとみられるこの個体は極端に人慣れしていた。池田専門員は「街に餌があると学習したり、人への恐怖が薄らぐような経験をすると悪質なサルが生まれる。石を投げて追い払う、餌をあげないなど人間の側にも意識が必要。女性や子どもは狙われやすく、目が合ったときは背中を向けずそっと逃げて」と呼びかけている。(春元唯、小林良多)

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1/26(日) 7:00配信
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