<飲食店の倒産増加は日本経済の現状を反映しているが、その意味合いについては冷静に分析する必要がある>

このところ飲食店の倒産が増えている。政府は倒産を抑制する政策を続けてきたが、2019年4月にその制度も完全終了した。飲食店の倒産増加は何を意味しているのだろうか。

帝国データバンクによると、19年1〜11月の飲食店倒産件数は668件で、過去最多だった17年を上回る勢いとなっている。なかでも「酒場・ビヤホール」は11年連続で最多、「西洋料理店」は3年連続で件数が急増している。

近年、ウーバーイーツなどネットを使ったデリバリーサービスが急拡大しており、飲食店に出向く人の数が減ってきた。昨年末には「忘年会スルー」が流行語になったことからも分かるように、会社の飲み会を敬遠するビジネスパーソンが増えており、アルコールを出す店は苦戦を強いられている。

しかしながら、飲食店への支出が減った最大の理由は、労働者の賃金が大幅に下がったことである。これまで労働者の名目賃金はわずかに上昇していたものの、物価上昇率がそれを上回っており、実質賃金がマイナスになるという状況だった。

しかし19年に入ってからは実質賃金だけでなく名目賃金もマイナスになる月が目立っており、給料の絶対値が下がっている。米中貿易戦争の影響で企業業績が悪化していることに加え、早期退職による転職の増加や、一定の年齢に達した段階で高い役職に就いていない社員を管理職から外す役職定年の強化などが影響した可能性が高い。

賃金が下がれば高額支出を控えるのは当然で、単価が高めの西洋料理店が真っ先に影響を受けたと解釈できる。零細な飲食店の場合、消費増税に伴うシステム改修費用が捻出できなかったり、アルバイトの人件費が高騰しているといった理由から自主廃業するケースも増えているという。

飲食店の倒産増加は、こうした日本経済の現状をそのまま反映した形だが、ネットの普及による消費行動の変化や労働者の賃金低下、人件費の高騰といった問題は飲食業界に限った話ではない。景気に敏感な飲食業界で倒産が増えているということは、この動きが他に波及する可能性が高いことを示唆している。

政策で倒産を防いできた

政府はリーマン・ショックを受けて中小企業金融円滑化法を施行し、意図的に倒産を防いできた。これは資金繰りが厳しくなった中小企業が銀行に返済条件の変更を求めた場合、銀行は金利の減免や返済期限の見直しに応じなければならないというもので、銀行は経営が悪化した企業にも支援を続けざるを得なかった。

同法は時限立法であり、13年に効力を失っているが、その後も、金融庁は銀行に対して報告義務を課してきた。実質的に法律の拘束力が続いていたわけだが、それも19年4月に終了した。

メガバンク各行は、収益低下から前代未聞のリストラを実施している最中であり、今後は融資先への姿勢も厳しくなると予想される。人口減少による市場縮小も進むので、各業界で倒産が増える可能性は高いだろう。

当事者にとって倒産は厳しいことかもしれないが、日本は空前の人手不足となっており、人材を最適配分しないと供給力に制限がかかる。存続できない企業は倒産させ、その従業員を人手が足りない他の業界にシフトさせることは経済全体にとってよい効果をもたらす。実は、倒産の増加そのものを過度に悲観視する必要はないのだ。


2/5(水) 12:18配信
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200205-00010000-newsweek-int