海と川と共に発展し水の都といわれる大阪。一方で避けられない台風などの際の高潮から長年、大阪の街を守ってきたのが「水門」です。特に川幅の広いところには「アーチ型水門」が設置されています。大阪にしかない名物水門ですが、間もなく姿を消そうとしています。

大阪市内を流れる木津川をまたぐように造られた緑色のアーチ。1970年、約30億円かけて完成しました。高さは30mほどもあります。

一般的な水門は、上下に扉が動く「ローラーゲート式」の構造がとられていますが、木津川水門は「アーチ型」で設計されています。これは水都・大阪ならではの構造だといいます。

「当時の大阪が川を使った船の航行が沢山あったので、水門を造ることで船の航行を阻害しないようにという形でこのような形式が選ばれています。」(大阪府西大阪治水事務所 武部孝司水門グループ長)

現在、淀川から大和川の間で大阪府が管理する水門は全部で6基ありますが、特に川幅が広い木津川・安治川・尻無川にはアーチ型水門が設置されました。これらは大阪の「三大水門」と呼ばれています。1961年の第二室戸台風などで度重なる高潮被害を受けた大阪を守るために造られました。

台風が近付いてくると、大阪府の担当者が実際に水門横の操作室に向かい、門を動かします。木津川水門では30分ほどかけ、ワイヤーに繋がれた500t以上あるアーチ部分を下ろしていきます。こうして川を塞ぎ、高潮の流入をせき止めるのです。

2018年9月、台風21号の影響で高潮が発生。関西空港が水没しましたが、その時も木津川水門が稼働していました。

実際の映像を確認すると、下流側の水位が5m以上も上昇していますが、高さ7m以上ある水門が水をせき止め、上流側へと流れ込むのを防いでいます。

「上流側の堤防が4.3mの高さで計画されているので、当然それだけの高さの水が入ってきた場合には、堤防を乗り越えて、市街地が浸水することになる。(Qこの水門がなかったら?)おそらく浸水被害は出ていた。」(武部孝司水門グループ長)

この木津川水門は、過去50年間で実際に稼働したのは11回。そのうち2017年に1回、2018年に3回稼働していて、台風の大型化に伴って、近年は稼働が増えているといいます。

ところがアーチ型水門は、その形ゆえに新たな問題に直面していました。それは『津波』です。南海トラフ巨大地震が発生した際、約2時間後に最大高さ4mの津波が大阪を襲うと想定されていますが、専門家はアーチ型水門の意外な「もろさ」を指摘します。

「真ん中に継ぎ目があるので、津波が来たときに力が集中して、継ぎ目のところで壊れやすい。」(京都大学防災研究所 平石哲也教授)

津波が起きる場合でも、水門を稼働させて押し寄せる水を食い止める必要があります。ところが、水門がカーブしているため、左右へ広げる方向に力が加わり、継ぎ目や根元の部分が破損する可能性があるというのです。

破損すれば水門を再び上げられなくなり、その状態で上流側で豪雨が起きれば、大量の水を長時間せき止め、逆に上流側の水位が上昇してしまいます。そうすれば、水が堤防を越え、大阪市内の広い範囲で浸水する恐れがあると指摘されているのです。問題は他にも…。

「(アーチ型は)電源を絶対に必要とする水門になっています。電源が切れると、この水門は操作できない状態になる。当然、耐震対策もしているが、想定外の地震が起こった場合、油の配管がやられて燃料が送れないとかも考えられる。」(武部孝司水門グループ長)

万が一、アーチを下ろせなくなれば、揺れの後に襲い掛かる津波の勢いを止められない恐れがあります。

一方、ローラーゲート式の他の水門は、津波に対して一定の強さがあり、電源が使えなくても“扉の重さを利用”して閉めることができます。

建設から50年が経ち、大阪府はアーチ型水門の解体を決定。20年後までには約360億円かけて「三大水門」全てをローラーゲート式に建て替える方針です。

「このままでは、この水門で大阪の街を守れないということになります。寂しい思いはありますが、新たな水門に全力をかけて取り組んでいきたい。」(武部孝司水門グループ長)

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