市販のカゼ薬も医師の処方するカゼ薬も、どちらもカゼは治せない
市販のカゼ薬はむしろ体に悪い
2020/02/19 9:00
https://president.jp/articles/-/32993

カゼを早く治すためにはどうすればいいのか。医師の木村知氏は、「市販のカゼ薬にも、医師が処方する薬にもカゼを治す効能は一切ない。むしろ有害となることさえある。ゆっくり身体を休めることしかない」という――。

■あのCMは真っ赤なウソ
カゼの症状が出たときに、医療機関にかかる前に、とりあえず市販の薬を飲むという人もいるだろう。総合感冒薬のCMで、「速攻◯◯アタック」とか「効いたよね、早めの◯◯」というキャッチコピーを繰り返し聞かされ続けていれば、「カゼを引いたら早めに薬で症状を抑えないと長引いてしまう」「早く治すためには、症状の出始めに薬を飲むべきだ」と思ってしまっても仕方ない。

※中略

しかし、これらの総合感冒薬がカゼに著効したという経験を持っている人は、多くないはずだ。それもそのはず、これら各々の薬剤はカゼを治す効能を持っていない。長引かせない効能もない。つまり早めに飲んだからといって早く治るわけでもないのだ。多少は症状が一時的に緩和されることもあろうが、大した効果を期待できるものではない。

事実、2017年、米国胸部医学会の専門家委員会は、「カゼに効く」とされているあらゆる治療法には、効果を裏付ける質の高いエビデンスがあるものは一つもなかったとし、「カゼによる咳を抑えるために市販の咳止めやカゼ薬を飲むことは推奨されない」との見解を示している。つまり、これらの薬の服用は無意味であり、CMのキャッチコピーは真っ赤なウソ、効能・効果に関して虚偽または誇大な広告の流布を禁ずる薬事法第66条に抵触し得るのだ。


■「市販薬は弱いから効かない」は誤解
患者さんの中には、市販薬は「弱い薬」だから効かない、医療機関で処方される薬は「強い薬」だから効くと思っている人も少なくないのだが、市販の総合感冒薬に入っている個々の成分と、医師がカゼの患者さんに出す処方薬の成分とに大きな違いはない。むしろ私はカゼの患者さんに、ここまで多くの薬を組み合わせた最強の処方をしたことはかつてない。

いくらこれらの薬を組み合わせたところで、カゼの症状を早期に改善させることが不可能であると知っているからだ。そもそも自己防衛反応ともいえる発熱や咳を、解熱剤や鎮咳薬で無理やり抑え込もうとしてはならないのだ。

※中略

いずれにせよ、市販薬にも医療機関で処方される薬にも、カゼを早く治す効果は一切期待できないのである。


■ウイルス感染症であるカゼに抗菌薬は効かない
なぜカゼを治せる薬はないのだろうか。いわゆるカゼというのは、ウイルスによる感染症だ。原因となるウイルスは、少なくとも200種類は存在するといわれており、しかも、カゼの半数以上の原因ウイルスであるといわれるライノウイルスには、それだけでも、少なくとも100種類の遺伝学的に異なるウイルス株があるとされる。

この数百というウイルスをすべて個別に識別して駆逐してくれる薬剤を作ることは事実上、不可能であるし、そもそもカゼという自然治癒する病気を根絶するために、多額の研究開発費を投じて薬を開発しようと考える製薬会社が現れることもないだろう。ウイルスゆえに抗菌薬(抗生物質)も効かない。抗菌薬が効くのは、ウイルスとはまったく異なる構造を持った病原体である「細菌」に対してだ。

※以下省略