政府は20日公表した2月の月例経済報告で景気は「緩やかに回復している」との判断を維持した。雇用や所得の環境が底堅く、個人消費は回復傾向にあるとみるが、世界経済の減速で弱含む生産や設備投資などの統計とのズレも目立つ。足元では新型コロナウイルスの感染拡大が新たなリスクとなっており、市場では日本経済は後退局面にあるとの見方も出てきた。

政府は「緩やかに回復している」との表現を2018年1月から使い続けている。この判断を今回も維持したのはファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)として重視する雇用・所得の環境が安定しているためだ。たとえば完全失業率は直近の19年12月も2.2%と歴史的な低水準だ。マクロの総雇用者所得も増加傾向に変わりはない。

内需の柱である個人消費については「持ち直している」との見方を示した。19年10月の消費税率引き上げ後の消費の落ち込みは、台風や暖冬の影響も大きかったとみる。週次や月次のデータでも家電や外食などは業況が回復傾向にある。

一方で「回復」という判断にはそぐわないデータも目立つ。17日に公表された19年10〜12月期の実質国内総生産(GDP)は前期比の年率換算で6.3%の大幅減だった。1月の輸出額は前年同月比2.6%減り、14カ月連続のマイナス。輸入も9カ月連続減と海外だけでなく国内の経済活動の冷え込みも浮かぶ。

内閣府が生産関連などの統計から機械的に算出する景気動向指数による基調判断は19年12月まで5カ月連続で「悪化」となった。この判断は定義上、景気後退の可能性が高いことを示す。月例経済報告の「緩やかに回復」という文言との食い違いは常態化している。

もともと政府が統計指標とは別に定期的に景気判断を公表する仕組みは世界的にも珍しい。それだけに市場でも経済データや政府の判断を巡り、様々な評価が交錯する。

SMBC日興証券の牧野潤一氏は「10〜12月の消費の落ち込みは台風の影響が大きかった。景気の回復基調には変わりがない」と政府に近い考えを示す。対照的に第一生命経済研究所の新家義貴氏は「日本経済は18年11月以降景気後退局面にある」との見方だ。持ち直しも新型肺炎の流行で「後ろにずれる」とみる。

明治安田生命保険の小玉祐一氏は「製造業だけみればリセッション(景気後退)だが、日銀短観を見ても非製造業の景況感は高い水準にある」という。経済構造が変わるなかで統計指標にも強弱が入り交じり、景気の判断は以前より難しさを増しているのは確かだ。

景気の先行きも新型肺炎の感染拡大で一気に見通しにくくなった。世界的な半導体需要の回復といった明るい材料も当面かき消される。訪日外国人客の減少や、サプライチェーンを通じた国内製造業への悪影響に加え、企業や家計の心理悪化も懸念される。2月の月例経済報告も最大のリスクとして「新型コロナウイルス感染症が内外経済に与える影響に十分注意する必要がある」とした。

2020/2/20 17:35
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO55879480Q0A220C2EE8000/