食べればわかる脂が乗った甘み 深海でとれた「未知の味覚」 鹿児島・錦江湾

 桜島を挟んで南北に広がる鹿児島県の錦江(きんこう)湾。水深200メートル以上ある湾央部の海域に潜む深海魚を水産資源として見直す取り組みが静かに進められている。「深海の希少な魚を食べよう」と題してNPO法人・くすの木自然館(同県姶良市)が主催した学習会に出掛け、未知なる味を体験した。

 小雨がそぼ降る2月15日朝、垂水市旭町の市民館の調理室には地元漁協の組合員らが集まり、学習会で振る舞う深海魚料理に腕を振るっていた。流し台には、氷と共にぎっしりと箱詰めされた見慣れない魚やエビの姿があった。

 用意された魚は、大きな目玉が特徴のオオメハタ、ひょろ長い尾を持つキュウシュウヒゲ、楕円(だえん)形をしたマルヒウチダイなど。提供した垂水市の漁師、大瀬美幸さん(63)によると、いずれも垂水市沖の水深150〜230メートルの海域で操業する「とんとこ網(小型底引き網)」で取れたという。

 現在、とんとこ網漁は、市場価値があるナミクダヒゲエビやヒメアマエビを狙っているが、オオメハタなどのさまざまな魚が一緒に入る。大隅半島の錦江湾沿岸の港町では、昭和の頃まで“担ぎ屋さん”と呼ばれた行商人の女性たちが、市場に出さない深海魚などを売り歩いていた。しかし、時代の流れと共にその姿はなくなり、流通はほとんど途絶えたという。

 「このあたりでは昔からなじみがある魚なんですよ。揚げると冷めてもおいしい」。マルヒウチダイを素揚げにしていた初老の女性漁師は笑顔で話した。揚げ立てをいただくと、さっくりとした衣をまとった脂が乗った甘みのある白身の味に、思わずうなずいてしまった。調理室では刺身や揚げ物、みそ汁などが次々と出来上がった。

 学習会では、鹿児島大学水産学部の大富潤(じゅん)教授(56)が、家族連れら約30人を前に講演した。後継者不足が深刻な国内漁業の現状や静岡県沼津市で先行する深海魚を名物に据えたまちおこしの事例が紹介され、参加者に深海魚料理が振る舞われた。

 鹿児島県鹿屋市から親子で参加し、深海魚を味わった森ちづるさん(42)は「食べてみて初めておいしさがわかりました」と目を丸くした。釣りが大好きという長男祐月さん(13)は「深海魚を食べたことで錦江湾の魚の知識が深まりました」と目を輝かせた。

 年間を通して各地で地魚の消費を促す講演活動を続けている大富教授は「地元で取れる魚に消費者が親しみ、おいしく食べてもらうことが地域の漁業の発展につながる。輸入物ではなく目の前の海で取れる魚をぜひ食べてほしい」と呼び掛けた。【松尾雅也】

 ◇メモ

 錦江湾の深海域は桜島南側の湾中心部に広がっており、最深部は237メートルに達する。底質は軟泥で覆われ、主力水産資源のナミクダヒゲエビや、近年、大富教授や漁業者の尽力で市場価値を上げたヒメアマエビなどが水揚げされている。漁に使う小型底引き網にはさまざまな魚が入るが、選別に手間が掛かるうえ、価格も上がらないことから廃棄されるケースもある。大富教授らはこれらの魚を特産品として見直し、消費拡大につなげる取り組みを進めている。


ヒメアマエビやマルヒウチダイ、キュウシュウヒゲなどを使った深海魚料理=鹿児島県垂水市で2020年2月15日、松尾雅也撮影
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2/24(月) 11:30配信毎日新聞