東京都清瀬市が給食で飲み終えた牛乳パックを子供たちに持ち帰らせてリサイクルさせようとしたところ、市内に住む保護者から「待った」がかかった。家庭に負担を押しつけることになることなどに加え、廃棄物処理法に違反する可能性が高いというのだ。市教委は法令違反の可能性を認め、断念することにした。どうして、こんな事態が起きたのか。【大久保昂】

 「令和2年度学校給食用牛乳の空き紙パックのリサイクルについて」

 2月中旬、清瀬市立小中学校に通う子供たちにこんな表題のプリントが配られた。これまでは牛乳の納入業者がパックを回収してリサイクルに出していたが、来年度からは家庭に持ち帰ってリサイクルをしてほしいとの依頼だ。@子供にチャック付きのビニール袋を支給するA空の牛乳パックを袋に入れて持ち帰らせ、自宅で洗ってリサイクルに出してもらうB袋も洗い、学校に毎日持って来てもらう――と具体的な方法も記されていた。

 都内では、来年度から大半の区市町村で納入業者による回収がなくなる。牛乳の納入に都外の業者が加わることになったのが直接のきっかけだ。東京の納入業者を除くと、牛乳パックを回収しているケースはほとんどなく、他県に合わせ中止することになったのだ。

 「回収をやめたい」という声は、これまでも業者側から出ていた。牛乳が残っていたり、ストローがささっていたりするケースが後を絶たず、廃棄物処理法に抵触する可能性が指摘されていたからだ。中止は時間の問題だった。

 各区市町村は、対応を迫られることになった。環境への配慮を掲げる東京オリンピック・パラリンピックを意識した都が「できればリサイクルを」と呼びかけたこともあり、多くの自治体は子供たちに牛乳パックを開いて洗わせ、回収業者に引き取ってもらってリサイクルを続けるという。

 ただ、子供の牛乳アレルギーに対する懸念から焼却したり、再使用できるビンの牛乳に切り替えたりする自治体もある。そんな中で清瀬市が打ち出したのが、家庭への持ち帰りによるリサイクルの継続だった。

 これに異を唱えたのが、清瀬市で小学生の長男を育てる中央大准教授の横山陸さん(36)。学校で出たごみの処分を家庭に委ねるのは、ごみを排出した事業者の責務について「自らの責任において適正に処理しなければならない」と規定した廃棄物処理法に違反するのではないかというのだ。

 持ち帰って洗うまでに細菌が増殖する恐れがある▽ビニール袋によるプラスチックごみを発生させる方法が本当にエコなのか疑問▽ひとり親や共働きの家庭への負担が大きい――などの問題点も指摘。市議会に中止を求める陳情をし、158人分の署名も提出した。

 市教委は慌てた。今回の案は「市が進める『ごみの減量』との整合性を取るためリサイクルは続けたい」という理想と、「子供のアレルギーが心配だから学校でパックを洗わせたくない」という事情で決まった。廃棄物処理法に触れる可能性など考えたこともなかった。衛生面の問題や家庭への負担についても、市教委教育総務課の細山克昭課長は「正直申し上げて検討していなかった」と明かす。

 横山さんからの指摘を受けた後、市役所内で環境行政を担当する市ごみ減量推進課に相談。「廃棄物処理法に抵触する可能性は否定できない」との結論に至り、牛乳パックを家庭に持ち帰らせるのは断念した。

 専門家の目には、一連の経緯はどう映ったのか。廃棄物処理法に詳しい佐藤泉弁護士(第一東京弁護士会)は、「家庭に持ち帰らせるのは明らかな法違反。費用と手間がかからない方法で、安易に家庭にごみ処理を押しつけようとしたように見える」と手厳しい。「パックを洗うために水をたくさん使うことや、子供たちの負担などを考えると、焼却処分が現実的ではないか」とも付け加えた。

 市教委は代替案について、「子供たちの安全第一で現実的な案を考える」と説明する。タイムリミットまで1カ月足らず。横山さんは「子供や保護者、教員に負担をかけない方法を考えてほしい」と話している。

3/2(月) 21:49配信
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