FRB(米連邦準備制度理事会)の緊急利下げに対する市場の反応は非常に冷淡なものだった。

3月3日、FRBは政策金利であるFF(フェデラルファンド)金利の誘導目標を0.5%幅引き下げた。

ニューヨークダウは、緊急利下げが発表された後、一時は前日比300ドル超上げたものの、結局、前日比785ドル安の2万5917ドルで引けた。長期金利の指標である米国の10年国債利回りは低下(価格は上昇)、一時1%を割り込み、過去最低を記録した。

米国でも、2月29日には初の死者が出るなど新型コロナウイルスの感染が拡大し始め、景気の先行きへの懸念が高まり、株価下落が続いていた。利下げは下落を食い止めるための措置だったが、歯止めをかけることはできなかった。

3日の大幅下落は、28日のパウエルFRB議長の利下げを示唆する声明を受け、前日の2日に、前週末比1293ドル高と利下げをすでに織り込んだ反動のせいもある。

一方で、市場の反応は「金融緩和でウイルスは死滅しない。利下げは感染拡大による混乱を収束させる決め手にはならない」という冷めた見方を反映しているともいえる。

日本の株式市場も金融緩和に対して同様の反応を示していた。2日に日本銀行は、「潤沢な資金供給と金融市場の安定確保に努める」との黒田東彦総裁の緊急談話を発表した。
この発表を受けて、2日の日経平均株価は上昇したものの、3日には反落した。

小売りの売り上げ減は不可避

その日本では、初動対応が遅れ、すでに大規模に感染が拡大しており、経済的混乱に拍車が掛かっている。

スーパーマーケットの棚から消えたマスク、トイレットペーパー、ティッシュペーパー、コメ。新型コロナウイルスによる新型肺炎患者が国内でも多数見つかり、市中ではじわじわとパニックが広がっている。

トイレットペーパーの買いだめ行動については「マスクと同じ紙の原料を使っているため品薄になる」とのインターネット上のデマが原因とされるが、買いだめによる品薄がさらなる買いだめを引き起こすという悪循環に陥っている。

販売する側のスーパーがさぞ、空前のもうけとなっているのかといえば、さにあらず。ある業界関係者は「2月最終週の売り上げが好調で、前年同期比で4割上がったところもあるが、利益は全然取れていない」と打ち明ける。

ティッシュペーパーやトイレットペーパーは客寄せのために特売されることが多く、そもそも利幅が小さい。加えて多くの客が店を訪れるため、店員を増やして対応することになる。
「お一人さま1個」を守らない客がいるため、セルフレジを停止させるケースもある。人件費が余計にかかる分、買いだめによってわずかに増えた利益が飛んでいくのだという。

小売店や外食の現場をさらに混乱させたのは、安倍晋三首相が2月27日に突然打ち出した全国の学校への休校“要請”だ。
普段は通学している小学校低学年の児童がいる家庭の場合、パートとして働いている主婦は子供の世話に追われる。また、子供は原則自宅待機であるため、高校生のアルバイト従業員も出勤できない。

そのためスーパーのライフコーポレーションは、午前9時や9時半だった開店時間を10時に遅らせた。ゼンショーホールディングス(HD)が運営する牛丼のすき家も、一部店舗で、販売する商品を牛丼のみとし、営業時間も見直す。

また、ただでさえ人手不足が深刻なコンビニエンスストアでは、シフトが綱渡りとなる店舗もある。「それでも24時間営業を強制されるのか」(フランチャイズ加盟店オーナー)との本部への批判の声がすでに出ている。
人手確保のために賃金を上げるとなれば業績悪化の要因になる。

加盟店を巡る苦境には昨年から社会的な関心が高まっており、感染拡大が長期化すれば営業時間の抜本的な見直しが求められる可能性もある。

北海道では鈴木直道知事が2月28日に「緊急事態宣言」を発し、3月19日まで週末の外出を控えるよう道民に求めた。そのため、週末の繁華街や商業施設は閑散としていた。

他の都市でもテレワークの増加や“自粛ムード”によって人通りは少ない。3月以降、飲食店や小売店の売り上げの大幅な減少は避けられないであろう。

https://diamond.jp/articles/-/230766
2020.3.5 5:40