新型コロナウイルスの感染が拡大し、宮城県内でも2月末に感染者が確認され、今後は市中感染も懸念される。感染の現況や政府の対応への評価、今後の見通しについて、日本環境感染学会前理事長で感染症対策の第一人者でもある賀来満夫・東北医科薬科大特任教授(東北大名誉教授)に話を聞いた(インタビューは4日に実施。情報は同日現在)。【聞き手・滝沢一誠】

 ――新型コロナウイルスについて、現在分かっていることは何か。

 潜伏期間は1日〜12日半、感染者の約80%は症状が軽い一方、死亡率は3・8%で高齢者や持病を持った人が重症化しやすい。インフルエンザよりは感染しにくいが、致死率は高い。ただ、こうしたデータは感染源とされる中国の症例を基にしているので、今後は日本でのデータを精査する必要がある。

 ――感染の現状はどうか。

 現在は感染が流行する初期段階にある。主な感染ルートは接触感染。飛沫(ひまつ)感染もあるが、閉鎖空間での感染が多い。

 ――クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の乗客で仙台市在住の70代男性の感染が下船後に確認された。今後、県内や東北でも感染は拡大するか。

 男性は外出時にはマスクを着け、二つの店舗に短時間しか滞在していないという。感染が広がるリスクは低い。ただ、男性とは別のルートで今後、感染が広がる可能性はある。

 ――政府が行った初期の水際対策をどう評価するか。

 既に(流行が表面化する前の)12月から中国・武漢では感染が広まっていた可能性が高く、感染者が検疫をスルーして入っていたかもしれない。水際対策は体温でしかチェックできず、効果的に行うのは難しかったのではないか。

 ――クルーズ船への対応も賛否が分かれた。

 乗客・乗員が多国籍で、約3700人という大きな船での集団感染は初めての経験だ。狭い空間で、手すりなども多い環境で衛生管理を徹底するのは難しい。下船させるにしても、3000人以上を陸上でとどめる施設や検査体制がないという現実もある。

 ――政府は小中高校の臨時休校を要請し、外出を自粛する動きも広まっている。

 学校は家庭に次いで感染が広がるリスクが高い。効果はまだ分からないが、「1〜2週間が山場」という中での選択としては理解できる。大切なのは、臨時休校や外出自粛などの感染対策を組み合わせることだ。

 ――流行のピークと終息をどう予測するか。

 SARSは2002年11月に確認され、ピークは03年3〜4月で同7月に終息宣言が出た。その例を考えると、今回は19年12月に始まったことから、20年4〜5月がピークで、8月まで続くと推測。夏以降も続く可能性は低いが、どうなるか分からない。3月末には現在の対策に効果があるか、見通しが立つと思う。流行がいつまで続くのか、少しずつ見えてくるはずだ。

 ――県内の感染者の受け入れ態勢は十分だと思うか。

 (感染を防ぐ)陰圧室がまだ不足しているなど、設備的には非常に厳しい面がある。ただ、各関係機関で連携・協力して態勢を整えているので、安心してほしい。ウイルスの有無を調べるPCR検査(遺伝子検査)の体制も需要に追いついていない。現状として、重症化リスクの高い高齢者や持病のある人を優先して検査する方針は間違っていない。

 ◇未解明多い デマ対策に政府の情報提供必要

 ――今後の見通しはどうか。

 重症化するコロナウイルスとしては初めて日本に入ってきたが、まだ未解明なことが多い。研究者や専門家の会議が科学的なデータを出すことに力を発揮し、検査体制の拡充に取り組む必要がある。

 ――感染症とは直接関係のないトイレットペーパーやティッシュペーパーの買いだめが相次いでいる。

 正しい情報がないと、今回のような買い占めにつながる。国民がデマに惑わされないよう、政府が情報提供していく必要がある。

 ◇賀来満夫(かく・みつお)氏

 1953年、大分県生まれ。長崎大大学院医学研究科博士課程修了。聖マリアンナ医科大助教授、東北大医学系研究科教授などを経て、19年から現職。専門は感染症学。3月からはプロ野球とサッカーJリーグによる「新型コロナウイルス対策連絡会議」の専門家チーム座長も務める。

3/6(金) 8:54配信毎日新聞
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200306-00000007-mai-sctch
画像 新型コロナウイルスの感染状況などについて語る賀来満夫・東北医科薬科大特任教授=仙台市宮城野区の同大福室キャンパスで2020年3月4日午後3時11分、滝沢一誠撮影
https://amd.c.yimg.jp/im_siggmPOxh39sqKUD6zb8FV.Jfg---x641-y900-q90-exp3h-pril/amd/20200306-00000007-mai-000-5-view.jpg