岐阜大と名古屋大は4月1日から両運営法人を統合して「東海国立大学機構」をスタートさせる。県境を越えた経営統合は全国初の試みで、事務組織の合理化や互いの強みを生かした研究を進める。岐阜大は規模の大きい名古屋大に埋没することなく存在感を発揮し、地域や県民にとって意義のある研究や教育を示していけるかが大学としての生き残りの鍵となりそうだ。

 「単独では国際レベルの競争力や教育力、研究力を飛躍的に進めることは困難」と森脇久隆岐阜大学長は強調する。人件費の増加や国からの運営費交付金は毎年1%ずつ減るなど支出を圧迫し、近年は厳しい状況に置かれてきた。

 統合の狙いの一つが事務の合理化と集約だ。各大学の事務職員を機構職員へと変更し、会計システムも統一。総務や財務など共通する部分を共有し、生まれた人員や財源を機構が重点的に取り組む糖鎖科学、航空宇宙生産技術、医療情報、農学の4拠点などに集中させていく。

 また教育改革を協働で進める組織「アカデミック・セントラル」を設置。特に1、2年生中心の全学共通教育は、英語教育やデータを分析・判断する数理データサイエンス教育を両大で一元化させ、実践的な教育に取り組む。将来は遠隔講義システムを使って各大学などへの配信も見据える。

 特に統合の象徴と言えるのが糖鎖科学だ。細胞の表面を覆う分子「糖鎖」は、ウイルスの感染やがんの発症に関わっているとされ、岐阜大は人工的に世界初の糖鎖を作り出すなど世界トップレベルの研究を展開。一方、名古屋大も生物や医学の面で研究を進めてきた背景がある。岐阜大に設ける糖鎖生命コア研究拠点の拠点長に就く同大生命の鎖統合研究センターの安藤弘宗教授(48)は「互いの強みを生かせる。研究の加速度は必ず増す」と力を込める。

 統合への期待感とは裏腹に、「何が変わるのかが分からない」「名大に吸収合併されるのでは」と教員や学生からの不安の声は根強い。特に岐阜大は、地域の経済や産業の活性化をテーマにした研究、教育分野への人材育成などに深く関わってきた。人文学系の大学関係者は「研究の成果だけに着目し選択と集中が進めば、これまで培ってきた地域との関係が無に帰す可能性もある」と危惧する。

 高い研究力が強みの名古屋大と地域貢献に重点を置いてきた岐阜大。森脇学長は「独自の個性を守った上で、スケールメリットを狙っていく」と見据える。研究や人材育成の環境がさらに高まれば、地域や県民にとっては大学の存在意義や統合の効果を実感できる。異なる特徴を持つ両大学だからこそ地域貢献と国際競争力の両輪を前進させる取り組みが求められる。

2020年03月31日 08:17
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