新型コロナウイルスに感染した日本サッカー協会の田嶋幸三会長(62)が2日、東京都内の病院から退院してウェブ上で記者会見し、「どんどんベッドが埋まっていって、ドクターも看護師もスタッフも、ばたばたしだした」と目の当たりにした医療現場の窮状を訴え、「命さえあれば経済の立て直しも、サッカーもスポーツもできる。亡くなったら何もできない。これを忘れちゃいけない」と呼び掛けた。 ジャケット姿でオンライン会見に臨んだ田嶋会長は、感染の経緯、病院のベッドの上で感じたことをよどみなく語った。

 体調不良を覚えたのは3月15日の朝だった。悪寒を感じ、「どうしたんだろう」。同日夕に体温を測ると37・3度だった。同2、3日にオランダ・アムステルダムで開催された欧州サッカー連盟理事会・総会で同席したセルビア、スイス両協会会長の感染を知り、「心配になった」という。

 保健所に相談し、PCR検査の結果、17日午後、陽性と診断された。田嶋会長は「組織のトップとして感染してしまったことについて申し訳ない思い」と振り返った。

 約1カ月前、欧米では新型コロナウイルスに対する危機意識は驚くほど低かった。それでも、田嶋会長と同行した日本協会の職員3人は「危機感を持って臨んでいた」という。食事の際は日本から持参したアルコール消毒液を必ず使用し、「(ホテルの)部屋に帰れば手洗い、うがいをしていたが、残念ながら感染した。悔しい」と苦々しく言った。

 東京都内の病院で計17日間、治療を受けた。微熱は1週間続いたが、せきや息苦しさなどの症状はなく、「さまざまな対症療法を受けた」という。投薬治療が奏功し、3月下旬にはベッドの上で執務するまでに回復した。

 田嶋会長は患者として「肌で感じた」という医療現場の窮状をどうしても伝えたかった。

 「どんどんベッドが埋まっていく状態になってしまう。重症者が入れなくなるのは目に見えている。ドクターも看護師もスタッフも、ばたばたしだしたのが日に日に分かる状況だった。エプロンやゴーグルも足りなくなっている。患者が増えてきた時、他の国のように医療関係者が感染するという、一番恐れている状態が増えていく。医療関係者が疲弊しない、感染しない状況を作らなければと身近で肌で感じた。抜本的に一斉にやっていかないと、ひずみが出た時には医療崩壊につながると肌で感じた」

 検査方法、感染者の一律入院措置の是非、退院基準など医療現場を逼迫(ひっぱく)させる要因はさまざまだが、最も考えるべきは人命にほかならない。「命さえあれば経済の立て直しも、サッカーもスポーツもできる。亡くなったら何もできない。これを忘れちゃいけない」。元感染者として、危機感のにじむ悲痛な思いを声高に訴えた。

4/2(木) 21:15配信
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