※中略

こうした歴史を紐解けば、日本としても生物化学兵器の廃止に関する国際条約の締結により一層熱心に取り組むべきであろう。しかし、日本からそうした動きはみられない。今から25年前に東京で起きた「地下鉄サリン事件」にしても、オウム真理教による仕業といわれているが、その実態はいまだに闇の中である。

そもそも、アメリカやロシアの生物化学兵器の専門家によれば、「地下鉄内で撒かれた物質はサリンではない。もし、サリンなら2万人の死者が出ていてもおかしくない。死者が11人ということはあり得ない話」という。実際に使われた細菌兵器の実態がなぜか隠蔽されてしまっている。731部隊の悪名のせいか、日本では生物化学兵器や細菌兵器はタブーになっているようだ。

しかし、それでは目の前に潜む「見えない敵」と揶揄されるウィルスの実態も暗中模索でなんら解明されないまま、ただ右往左往するだけで、そのうち開発され市場に出回るはずのワクチンや特効薬を高値で買わされてしまうのが関の山であろう。

実際、「転んでもただは起きぬ」のがモットーで、破産倒産を何度も潜り抜けたトランプ氏は、非常事態宣言を発した裏側で、しっかりとファミリー・ビジネスのチャンスを手にしようと動いている。何かといえば、新型コロナウィルス対策のワクチンと特効薬の開発である。潤沢な政府資金を娘婿のクシュナー氏の関係する医療保険会社に流し込もうという算段だ。

特効薬をめぐっては、中国企業は言うに及ばず、ドイツや日本の製薬メーカーもしのぎを削っている。もちろん、アメリカ企業も例外ではない。そんななか、トランプ大統領はCOVID-19対策チームを立ち上げ、ペンス副大統領を責任者に指名した。しかし、それとは別にクシュナー氏をトップとする「シャドー対策本部」の設置も認めたのである。クシュナー氏曰く「緊急時には政府機関や役人では対応が遅い。民間のエキスパートを集めて、早急な感染防止策を打ち出す」。

すでにクシュナー氏の肝いりで、身内の関係する医療保険会社「オスカー・ヘルス」では新薬の試験を始めた。その上、診察を希望する人たちを最寄りの医療機関に紹介するアプリの開発も進めている。こうした開発に係わる経費は全額、国の緊急予備費で賄うという。

しかも、クシュナー氏の弟の義理の父親は内科医であるが、自らのフェイスブックを通じて「自分はホワイトハウスに強力なコネがある。今回のパンデミックに関連して、何か治療法や予防法について提案があれば言ってきてほしい」とPR活動に忙しい。どう考えても、多くの人命が危機的状況に晒されているときの最高指導者やその親族がとるべき行動とは思えない。

過去にも数々のワクチンが開発され、市場に投入されたが、副作用で想定外の人命が失われるケースも頻発している。きちんとした動物実験や治験を経ない急ごしらえの「利益優先」の特効薬ほど危険なものはないだろう。アメリカ政府も今回のコロナについては「発生原因が特定できない」と認定しているわけで、「他の病原菌に効果があった」との理由で試験的に投与されている試薬も多いといわれるが、その効果のほどには慎重な見極めが求められる。

現時点において、アメリカ政府は「第三次世界大戦を勝ち抜く」との思いで、さまざまな戦略を打ち出している。非常事態であるがゆえに、特例的な対策も次々に繰り出されているわけだ。予備役や囚人の大量動員も然り。身内優先の特効薬の開発予算の割り振りも然り。しかし、国防関係者の危機意識と、この期に及んで私利私欲に走るトランプ大統領一族の動きには大きなギャップがある。アメリカの屋台骨を崩そうと意図する勢力は、そうしたギャップこそ超大国のアキレス腱と見なしているのだろう。

単なる新たな感染症の蔓延ではなく、新たな戦争の始まりという危機感に基づく国防政策が功を奏するのか。超大国アメリカが「アメリカ・ファースト」と内向きになり、いまだにファミリービジネスに執着する最高責任者が権力の座にある事態を目の当たりにする現在、超大国の座を奪おうとするどの勢力が勝利するのか興味深い。一方で、目前に広がる最終戦争に対しても、「見ざる、言わざる、聞かざる」を決め込んでいる日本の敗戦国根性は残念至極である。

(文=浜田和幸/国際政治経済学者)

2020.04.14 06:10
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