コロナの脅威は首都の警察組織の中枢、“桜田門”も直撃している。

 警視庁担当記者に言わせると、

「警視庁でもこれまでの捜査を継続していれば、留置場や取調室でのクラスターが発生することも考えられ、対策が必要となっていました。また、容疑者を引き受ける検察庁でも検察官が一度感染すれば、人員にも限りがあるゆえ、機能不全に陥りかねないことを危惧しているのです」

 そこで、驚くべきこんな対策が進んでいるという。

「殺人や窃盗などの“発生モノ”はこれまでと同様の態勢をとりますが、内偵が必要な捜査は逮捕を控える方針になっています。例えば、捜査2課が受け持つ詐欺事件。警視庁の2課長は周囲に“時効が迫っているものから進める”と漏らしています。すなわち、時効が迫っていない事案については、急いで捜査を進めなくていい、ということ。検察にとっても、感染リスクのある容疑者の送検を避けることができます」(同)

 要は不要不急の外出、ならぬ“逮捕”は控えろというわけだ。

 元神奈川県警刑事で犯罪ジャーナリストの小川泰平氏は、珍しいことではないと、こう指摘する。

「こうした対応は過去にも東日本大震災などの非常時に取られてきています。ただ、今回は局地的な天災ではなく、全国規模で対応せねばならないので、警察も相当に慎重になっているのは事実です」

消毒液を…
 現役警察官の苦悩を推し量ってもらうと、

「赤坂署のように刑事課で一人でも感染者が出ると課の全員が自宅待機になってしまう。ですから、“絶対に感染してはいけない”として、消毒液を持ち歩く刑事もいます。濃厚接触になる柔道や剣道の稽古は中止、飲み会や食事会の類もありません。出勤日は自宅に直帰して、休日も外出しない徹底ぶりです」(同)

 捜査への影響もある、と続ける。

「緊急時以外は聞き込みもしづらい状況です。そういう時は、関係者の自宅に手紙を投函して連絡を待ちます。取り調べも今は容疑者にマスクの着用が許可されているようで、表情を読むことが欠かせない刑事にとっては辛い状況です」

 先の記者が補足する。

「3月に警視庁が逮捕したフィリピンの特殊詐欺の事案では、渡航制限で現地の証拠を押収できず、起訴できるかが危ぶまれました。今後は、緊急性があり、確実に起訴できる案件を優先していく流れになるのではないでしょうか」

 織田裕二よろしく正義感あふれる刑事なら「事件に大きいも小さいもない!」と叫ぶ場面か。だが、背に腹は代えられない事情もあるということだろう。

「週刊新潮」2020年4月16日号 掲載

国内 社会 週刊新潮 2020年4月16日号掲載
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