新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックにより世界中が混乱に陥っていますが、外界と隔絶された南極大陸には依然として新型コロナウイルスが到達していません。それでも、世界中がCOVID-19の猛威にさらされている状況については南極基地の隊員たちも理解しており、COVID-19について感じたことや影響について隊員たちが語っています。

南極のイングリット・クリステンセン海岸にあるデイヴィス・ステーションは、オーストラリア南極局が管理する観測基地です。ここには24人のオーストラリア人とニュージーランド人が滞在しており、例年通りに大気観測や海鳥を撮影するカメラの設置、基地の修繕といった作業が行われています。

南極基地にもCOVID-19のパンデミックに関する情報は届いており、デイヴィス・ステーションのリーダーであるデヴィッド・ノフ氏は、「南極にいる私たち全員にとって不安な時間です」とコメント。オーストラリアやニュージーランドから遠く離れた南極では、故郷の生活がどのようなものになっているのか、詳しい事実を知ることができないとのこと。

COVID-19は宇宙開発事業にまで影響を及ぼしており、国際宇宙ステーション(ISS)の第63次長期滞在クルーであるChris Cassidy氏、Anatoli Ivanishin氏、Ivan Vagner氏の3人は、2020年4月の打ち上げ前に3月からの隔離措置を受けなくてはなりませんでした。隔離されたのは宇宙飛行士だけではなく、搭乗前の宇宙飛行士と接触するスタッフたちも隔離を行ったそうです。

デイヴィス・ステーションでは2020年2月中旬に夏のチームが南極大陸を離れて以降、外部との接触はありません。「私たちが10月にオーストラリアを離れた時、誰もCOVID-19について聞いたことはありませんでした」「ここには1人の医師と設備が整っているものの、小規模な医療セットしかないことを考えると、ステーション内でCOVID-19が流行すれば壊滅的な結果になるでしょう」と、ノフ氏は述べました。

故郷のオーストラリアやニュージーランドにおけるCOVID-19の影響は、隊員たちにとって不安の種となっています。ノフ氏は「普段は誰もが幸せに故郷に帰ることができますが、今ではCOVID-19により多くの人が職を失い、自宅隔離を余儀なくされ、旅行もできません。愛する人が病気になったり、安全を保つために劇的にライフスタイルを変えたりすることを心配しています」とコメントしています。

記事作成時点では南極大陸全体で70もの基地が活動中であり、冬季もおよそ1000人もの隊員たちが南極大陸にとどまります。オーストラリア南極局が管理する南極基地はデイヴィス・ステーションを含めて4つあり、合計で89人の隊員たちが今も基地で活動を続けているとのこと。デイヴィス・ステーションには映画やビスケット、Wi-Fi通信設備などもあるため、隊員たちは前向きに過ごしているそうです。

デイヴィス・ステーションに滞在する上級科学者のダン・ダイアー氏は、「南極基地の科学研究に対するCOVID-19の影響は、おそらく来年の夏に最も強く感じられるでしょう」と指摘。当初予定されていた一部の科学者や研究設備を南極基地に運び込むことができず、来年の夏に計画されていた多くの科学研究プロジェクトが延期または縮小される可能性があります。長年の努力が誰にもコントロールできない事態の影響を受けることについて、ダイアー氏は悲しく思っているとのこと。

ノフ氏らのチームは今後数カ月にわたってデイヴィス・ステーションにとどまる予定ですが、何か問題が発生した時に備えて、基地には2年分の食料ストックも用意されています。「現時点では、私たちは2020年の夏にオーストラリアへ戻る予定です。もちろん今後数カ月の間に、海外旅行や海運、航空による影響を受ける可能性があります」とノフ氏は述べました。

なお、日本の第61次越冬隊も、2019年11月に日本を出発してから昭和基地にとどまっています。帰国予定は2021年3月となっており、2人の医師や人工呼吸器、レントゲン装置といった医療設備も整っているとのことです。

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https://gigazine.net/news/20200417-antarctica-scientists-untouched-covid-19/