コロナショックが深刻化する中で、エンターテインメント業界への影響が心配されています。日本よりもコロナウイルスの感染拡大がディープな状況となっているアメリカでは、ソーシャル・ディスタンシング(社会的距離)の規制が極めて厳しく、同業界に従事する人達への影響は多大なものとなっています。

このような状況の中で、動画配信大手であるネットフリックスでは新型コロナウイルスの感染拡大の影響で収入減に陥っている俳優や制作スタッフを含む「クリエイティブ・コミュニティー」を支援するため、1億ドル(約110億円)の基金を立ち上げました。

コロナショック下の映像制作を支援

3月20日に同社のテッド・サランドス最高コンテンツ責任者(CCO)が投稿した公式ブログに、基金についての想いや具体的な取り組みが述べられています。その中で、サランドスCCOは、「COVID-19がもたらした危機は、クリエイティブ・コミュニティーを含む多くの業界に壊滅的な打撃を与えています。ほぼすべてのテレビや映画の制作が世界中で止まり、それによって何十万人ものスタッフやキャストが職を失っています」、「基金の多くは、最も大きな打撃を受けている世界中の制作スタッフの支援に使われます。さらに、私たち自身への支援だけでなく、より幅広い映画・テレビ業界にも協力したいと考えています。そのため、1500万ドルは、私たちが大規模な制作拠点を持つ国で、仕事がないキャストを救済するために、第三者機関や非営利団体に向けて拠出されます」とコメントしています。

拙著『経営戦略4.0図鑑』でも取り上げているネットフリックスの特徴や強みについて考察していきます。

ネットフリックスの設立は1997年に遡ります。創業時は、DVDのオンラインレンタル事業を行っていました。その後、ネットフリックスは定額制のレンタルサービスをスタートさせて会員数を増やし、DVDのレンタル市場においてトップに立ちます。

現在のようなインターネット上での動画配信サービスに移行したのは、創業から10年近く経った2007年です。2012年には、いち早くオリジナルコンテンツの制作に取り組んで競合他社との差別化に成功し、現在では全世界に1億 5800万人以上の会員を持つに至っています。ネットフリックスは、いまや、世界最大の動画配信サービス企業です。

2019年12月期の売上高201億5,600万ドルの内訳をみてみると、もはやアメリカ国内DVDは2億9,700万ドル(1.5%)にとどまっており、アメリカ国内ストリーミングが92億4,300万ドル(45.9%)、海外ストリーミングが106億1,600万ドル(52.7%)と、完全にストリーミング事業がメインになっています。

2019年12月期の決算をみると、ひときわ目を引くのが営業利益の少なさです。26億ドル(2,860億円)しかありません。売上高営業利益率は12.9%しかなく、ネットサービス企業としては低水準といえます。

営業利益が少ない最大の理由は、ネットフリックスが動画コンテンツの制作および取得に巨額の費用をかけているからです。2018年にオリジナルコンテンツに投じた制作費は、120億ドル(1兆3,200億円)に上ります。そして、2019年12月期には、153億ドル(1兆6,830億円)にまで増加しています。日本のいわゆる在京民放キー局(日本テレビ、TBS、フジテレビ、テレビ朝日、テレビ東京)1社あたりの番組制作費は、年間でせいぜい1,000億円程度です。5社を合計したとしても、5,000億円に届きません。ネットフリックスのオリジナルコンテンツにかける予算がいかに膨大であるかがわかります。

ネットフリックスのキャッシュフロー計算書(CF)の「営業キャッシュフロー」の項目には、コンテンツの取得費が含まれています。そのため、毎年のようにネットフリックスの営業キャッシュフローは大幅なマイナスとなっており、2019年においては29 億ドル(3,190億円)の赤字でした。ネットフリックスは巨額の収益を上げながら、資金の借入れまでして、オリジナルコンテンツの制作とコンテンツの取得に邁進しているのです。しかも、営業キャッシュフローが赤字に転じた2015年以降、赤字幅は年を追うごとに拡大しています。

オリジナルコンテンツにこだわる理由

ネットフリックスがコンテンツの制作と取得、特にオリジナルコンテンツの制作にこだわる理由は、なんといっても動画配信サービス市場の競争激化にあります。

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https://toyokeizai.net/articles/-/344862