◆466億円もかかるはずがなかった
新型コロナウイルスの感染拡大によるマスク不足を解消しようと、安倍晋三首相が4月1日に日本の全戸5000万世帯に配ると表明した布マスク、いわゆる「アベノマスク」が迷走を重ねている。

当初示された466億円もの「高すぎる予算」の中身はどうなっているのか、異物の混入など品質面での問題が多発したのはなぜなのか――話題のわりに謎多きアベノマスクの実態を、取材にもとづいて検証する。

◆あまりに高すぎる予算
4月1日、御年65歳の安倍首相が顔に対して明らかに小さいマスクをつけて、参院決算委員会に登場したことから全ては始まった。

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小学校の給食係を彷彿とさせる見た目と、自信満々の安倍首相のギャップに衝撃が走った。
これには海外のメディアも反応せざるを得ず、米FOXニュースは「エイプリル・フールの冗談か」と揶揄し、ブルームバーグ通信は「アベノミクスからアベノマスクへ」(電子版4月2日付)という記事を配信した。

突然の発表に驚きが広がる中、さらに批判を高める要因となったのが、あまりに高すぎる費用だ。

「1枚200円程度と聞いている」

菅義偉官房長官は4月2日の記者会見でこう答えたが、あのマスクが本当に200円もするのか?と感じなかった人のほうが少ないだろう。
当初示された予算総額は、実に466億円。
外出自粛による経済苦が続き、飲食店や自営業者などが休業補償を求める中、「そんなカネがあるなら他に回してほしい」という声が即座に上がったのも無理はない。

この466億円の予算額のうち、政府と契約した商社などの企業からマスクを買い取るために必要な調達費338億円が、24日になって突如「90億円程度に抑えられる見通し」(菅官房長官)と大幅に軌道修正された。
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◆いったいどういう計算をしたのか
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当初示された予算総額466億円は、財源の内訳でみると予備費が233億円、今月末に成立する緊急経済対策の補正予算の233億円だ。
使い道は、先述の調達費338億円のほか、日本郵政グループの郵便システムを使って各世帯に届けるのにかかる配送費が128億円と説明された。

福島瑞穂社民党党首からの質問に対し、21日に厚生労働省が回答した文書によると、受注先は医薬品・マスクメーカー大手の興和、伊藤忠商事、マツオカコーポレーションの3社で、契約額はそれぞれ約54.8億円、約28.5億円、約7.6億円の計約90.9億円だった。

233億円のうち約90億円がマスクの調達費に当てられるということは、総額466億円のうち約180億円がマスクの調達費と想定されていたことになる。
配送費が128億円として、466億円から308億円を引いた158億円が残る。事務費や雑費を引いても、150億円以上の「余裕」をもって計算されていたことになる。

案の定、この筆者の計算で出てきた「浮いた158億円」はその後撤回されることとなった。
政府がこれほど大きな事業を行うとき、予算とはいえ、100億円を超える「誤差」が生じるのは異常といっていい。
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◆せいぜい1枚60円

「あんなボロマスク、せいぜい仕入れで1枚60円がいいところですよ」

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費用以上に大きな批判を呼んだのが、アベノマスクの低品質ぶりだ。
急ピッチで発注をかけたせいか、不良品が相次いで報告された。
厚労省は妊婦向けの布マスクのうち7800件以上について「黄ばみや黒ずみなどの変色がある」「ゴミや髪の毛が混入していた」「異臭がする」などの不良品事例があったことを明らかにし、21日に配布中止を決定。
全戸配布用のマスクにも同様の不良品が混入していたとされ、Twitterなどでも「健康被害はないのか」「安心して使えない」と不安の声が広がった。

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◆挙げ句の果てに逆ギレか
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安倍首相自身も、布マスク配布への批判の高まりについて質問した朝日新聞の記者に対し、「御社のネットでも布マスク、3300円で販売しておられたということを承知している」と反論し、器の小ささをあらためて露呈した。

有事の際、権力者が市民から厳しい批判に遭うのは当然のことである。還暦を超えたいい大人が、都合の悪いことを聞かれて逆ギレするなど、子供じみているとしか言いようがない。

今回のアベノマスクの失態も、耳障りのよいことを言う幇間ばかりを引き立て、異見に耳を傾けないこの政権の体質が生んだものではないか。

2020/04/26
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/72147