★マスク窮乏は中国依存があだに コスト優先・国内増産の投資に二の足
2020.4.27 06:21
https://www.sankeibiz.jp/business/news/200427/bsc2004270500001-n1.htm

 スーパーやドラッグストアの棚からマスクが消えて3カ月。国内流通の7割を中国に依存した供給構造があだとなり、輸入量が戻りつつある今も、
急増した需要を賄うには届かない。メーカー各社は国内の新規増産投資には二の足を踏む。
安倍政権が打ち出した全世帯への布マスク配布も迷走し、店頭での品薄状態はなお長期化しそうだ。

■首相が業界やり玉

 世界保健機関(WHO)が新型コロナウイルスの「パンデミック(世界的大流行)」を表明した3月中旬。
大手マスクメーカーの広報担当者の携帯電話が早朝に鳴った。
「今日これから、テレビ局にマスクの生産ラインを公開してほしい。経済産業省からの要請だ」。声の主は社長だった。

 急遽(きゅうきょ)航空券を手配し、東京から600キロ離れた生産工場へ飛んだ。
白い作業服姿の従業員が箱詰めし、マスクを満載したトラックが次々と出荷先に向かう様子を公開。各局は夕方や夜のニュースで大きく報じた。

 担当者はその日のうちに都内へ戻ると、嵐のような一日を振り返った。
「いつになっても店頭にマスクが並ばず『本当に生産しているのか』という声を抑えるのが経産省の狙いだろう。それにしても、突然だった」

 政府はこれまで、設備投資費用の最大4分の3を補助する制度を整えて増産を支援。インターネットなどでの転売も規制し、品薄状態の解消に努めてきた。
国内の生産能力は月7億枚と、コロナ流行以前の数倍に向上。それでも需要を満たすには至らず、マスクを求めて店前に並ぶ人の列は日に日に延びた。

 しびれを切らした安倍晋三首相は4月1日、後に「アベノマスク」と揶揄(やゆ)される布マスクの全世帯配布を表明する。
17日の記者会見では、マスクを含む医療物資不足の背景に「中国に大きく依存していた問題点がある」と述べ、関係業界をやり玉に挙げた。
これには業界関係者も「調達コストを優先した点は否めない。大いに反省すべき部分だ」とうなだれる。

■終息後の過剰嫌う

 ただ、中国頼みは日本に限らない。世界のマスクは半数が中国製とされる。自社の専用工場を持たず、現地企業に生産を丸投げしていたケースも多い。
世界的な需要急増で生産現場がパニックに陥り、中国の輸出制限が混乱に拍車を掛けた。

 その中国は、当局の大号令で各企業がマスクの大増産に動く。
「世界最大の生産ラインを立ち上げた」と豪語する電気自動車メーカー「比亜迪(BYD)」が1日1500万枚を量産するなど、輸出に回す分も増えてきた。
経産省によると、日本の輸入量は現在週3000万枚ほどで、ほぼゼロまで落ち込んだ2月中旬から復調傾向にある。

 他方、日本国内での増産に向けた動きは十分ではない。既存設備の生産量は頭打ちで、感染終息後の供給過剰を嫌って新規投資は手控えられている。
最大手ユニ・チャームの高原豪久社長は「今年秋以降に業界全体の国内生産は月1億枚増える」と見込むが、不足分は輸入が必要だと説明する。

 新型コロナとの闘いは年単位との観測もくすぶる。中国頼みの構造課題を解消できぬまま、マスク騒動は続く。