新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言のなか始まった大型連休(GW)で、低山に登山者が集中している。愛知県豊田市と瀬戸市にまたがる猿投山(六二九メートル)の山頂には大勢の登山者が訪れ、ピーク時に約六十人が密集。本格的な登山に自粛要請が広がる一方で、低山ならば問題はないのだろうか。

 「これはだめだね」。好天となった二十六日午前十一時すぎ、登山者でにぎわう山頂スペースに上がってきた瀬戸市の六十代と七十代の女性二人組は、即座にきびすを返した。子どもを連れた家族が目立ち、お弁当を広げる八人ほどのグループも。体力低下を心配して三週間ぶりに外出したという名古屋市の五十代女性は、「近所の小幡緑地は人が多いのでこちらに来たが、まずいなと思った。でも山に来て元気が出たので、また家で頑張りたい」と笑顔で下山した。

 猿投山は歩きやすい主要道と多彩な枝道があり、初心者や家族連れ、トレイルランナーにも人気の低山。正午時点で第一、第二駐車場合わせ計百十台分が満車となり、登山口付近には路上駐車があふれた。登山中にマスクをしない人は半数程度いた。

 健康維持のためのランニングや散歩は外出自粛の対象ではなく、取り組む人が急増している。

 一方、本格的な登山は県をまたいだ移動で感染を広める可能性がある上、遭難時の救助者への感染や、切迫する医療への負担など懸念が多い。二十日には国内の主要登山団体が自粛を呼びかける共同声明を出し、現在は大半の山小屋が休業。山梨県北杜市など、登山道を閉鎖する自治体もある。

 こうした動きも、近場の低山に登山者が流れる一因だ。自身も登山をする愛知県立大の清水宣明教授(感染制御学)は「休憩時のおしゃべりや飲食で飛沫(ひまつ)が飛ぶことはありえるが、風はあるし、室内よりリスクは低い。行動中のリスクはランニングや散歩と同等」と、感染リスクは低いと指摘する。

 とはいえ、リスクはゼロではない。愛知県半田市のトレイルランナーの四十代男性は、GW期間中に三重県の鈴鹿山脈に行こうと考えていたが、県外への移動になる上、けがをすると自力で下山するのが難しいため断念。この日はトレーニングで訪れたといい「人とあまり接触せず、誰にも迷惑かけずに帰宅できることが一つの基準。自粛するかしないか、そのちょうどはざまにある存在が猿投山」と話した。


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