自閉症の若者が働く洗車サービス店「驚くほどきれいに」
4/30(木) 7:32配信

自閉症は、対人関係や言語、コミュニケーションの障害に加えて、同じ行動の繰り返しが見られる複雑な神経疾患だ。障害の程度だけでなく能力にも大きな個人差があるため、「はっきりした境界がなく連続した範囲」を意味するスペクトラムという言葉を付けて、自閉症スペクトラムと呼ばれている。

自閉症スペクトラムの人は増え続けている。米疾病対策センター(CDC)が2018年に発表した調査結果によれば、8歳児の59人に1人が自閉症と診断されている。2年間に15%の増加だ。その理由については活発な議論が続いているが、確実に言えるのは、自閉症の成人が急増するということだ。米国では21歳以降、自閉症の人が受けられる公的サービスは一気に減る。彼らは日常生活をどう送ればいいのか。

 自閉症特有の能力を評価する企業は増えている。なかには並外れた才能をもつ人もいて、そうした人材を募集する部署まで設置している企業もあり、たとえばマイクロソフトやヒューレット・パッカードは自閉症の技術者やデータ専門家を積極的に採用している。こうした変化は大いに歓迎できるが、並外れた才能をもつ自閉症の人はごく一部だ。

弟の存在が起業のきっかけに

 米国には自閉症の子どもを抱える親たちが始めた事業も多いが、その多くは非営利である。従業員の多くが自閉症スペクトラムでも、収益化を目指す企業はあるのだろうか。

 そこで注目したのがフロリダ州にある洗車サービス店「ライジング・タイド・カーウォッシュ」だ。このサービスをよく利用するというフロリダ在住の友人は「お客さんは自閉症の若者を支援しようと思ってここを利用するわけじゃないの。びっくりするほど車がきれいになるからよ」 と言う。

 共同経営者のトム・デリの弟アンドルーも自閉症で、ここで働いている。弟の存在がこのビジネスを始めるきっかけになった。ライジング・タイドは2013年に開店にこぎ着け、4年後には2店舗目がオープンした。

 デリは当初、この事業に乗り気ではなかったという。「自閉症の人たちを雇うことには抵抗がありました。うまくいくかどうか不安でね」。従業員を理解するには、彼らの言うことに辛抱強く耳を傾ける必要があると学んだという。

 32歳になる従業員のジェフとアンソニーに仕事で一番気に入っている点を聞くと、アンソニーが間髪入れずに答えた。「仲間がいることさ。いつも同じ顔ぶれと会って、仕事をしながら話ができる。退屈なときとかね。そうだよね、ジェフ?」。「うん、そうだ」とジェフ。「僕らは思いついたことを何でも話す。本音で話すんだ」

この「本音で話す」傾向が、当初はデリの心配のタネだった。とはいえ、「自閉症じゃない従業員の行動には、もっともっと手こずりますよ」とデリは言う。

 大事なのは従業員をよく知ること、問題になるような癖を知ることだと、デリは話す。「自閉症の従業員が求めていることはわかりやすいんです。でも、彼らの要求はほかの従業員と変わりません。自閉症の場合は、それがはっきり表に出るだけでね」

ナショナル ジオグラフィック5月号「自閉症を抱えて大人に」では仕事やパートナーを見つけにくい自閉症の人たちに手を差し伸べる人たちを描きます。

文=ジュディス・ニューマン/ジャーナリスト

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200430-00010000-nknatiogeo-sctch