【ジャカルタ=地曳航也】インドネシア外務省は12日、スイスのジュネーブに本部を置く国連人権理事会で、水産業における人権侵害を注視するよう求めたと発表した。中国漁船の船籍でインドネシア国籍の乗組員3人の遺体が海上に遺棄された問題を巡って過酷な労働環境が指摘されており、国際社会に注意喚起した。インドネシア政府は中国政府に事実関係の解明を求めている。

インドネシアの在ジュネーブ国際機関政府代表部が8日の人権理事会の非公式協議で、問題への懸念を伝えた。ハサン・クレイブ大使が「水産分野で働く人の人権を守る差し迫った必要がある」と強調した。理事会は新型コロナウイルスの感染拡大の抑制と人権保護を両立する施策について議論を続けている。

インドネシア外務省によると、中国船籍の2隻の漁船が太平洋上を航行していた2019年12月と20年3月、インドネシアの乗組員計3人が死亡した。船長は3人が感染症で死亡し、他の船員への感染を防ぐため、遺体を海に投棄したと説明しているという。

4月下旬に一部のインドネシア船員が韓国の釜山で停泊中に下船し、問題が発覚。下船した船員の1人は釜山で肺炎のため死亡した。

インドネシア船員の弁護士は10日、船内で1日18時間を超える労働が強いられるなどの人権侵害があったとする声明を発表した。中国人船員がミネラルウオーターを飲んでいた一方、インドネシアの乗組員は海水の蒸留水を飲まされていたと指摘。給与の一部未払いもあったとも明らかにした。国家警察は捜査に乗り出す構えだ。

中国との外交問題にも発展しつつある。ルトノ外相は7日、駐インドネシア中国大使を外務省に呼んで懸念を伝え、事実関係の解明を求めた。インドネシア出稼ぎ労働組合(SPMI)はこれに先だち、駐中国大使の召還と駐インドネシア中国大使の送還を求める声明を発表した。

中国外務省の趙立堅副報道局長は11日の記者会見で「真剣に受けとめ、調査している。事実と法に基づいて適切に対処する」と強調した。

2020年5月12日 22:01
https://r.nikkei.com/article/DGXMZO59016100S0A510C2EAF000