安倍の「退陣シナリオ」とは、どういう代物だったのか。

大前提は、意外かもしれないが、副総理の麻生太郎や元首相の森喜朗、
それに首相補佐官兼秘書官の今井尚哉ら側近たちからどんなに続投を求められても、総裁4選を絶対に目指さないということだった。

「早く自由になって毎日ゴルフを楽しめるようになりたい」。
安倍は昨年から、気心の知れた知人に繰り返し、そう漏らしてきた。
それはまさに本心から出た言葉だった。このまま首相を続けても何もいいことはなさそうだ――という八方ふさがりの状況が、安倍をそうした心境にさせた。

安倍が民主党政権の後を受けて第2次政権を発足させた7年以上前から、
政権の「第一のレガシー」に据えようと考えてきたのは「デフレ脱却」だった。
だが、実現の見込みが立たず、むしろ今夏の東京五輪が終わった後は景気が大幅に冷え込むことが予想された。

「日ロ平和条約の締結」という外交的悲願も、プーチンに翻弄されるばかりで見通しは全く立たない。
昨秋、水面下でプーチンから「平和条約交渉を仕切り直そう」とのメッセージが届いた時、
安倍は「もうあんな厳しい交渉はやりたくない」と一度は消極的な姿勢を示した。気力も失われているのだ。

さらにコア支持層も期待する「拉致問題の解決」と「日朝国交正常化」という目標に至っては、
すべてはトランプ・金正恩による米朝協議の進展次第という有様で、自力では手掛かりすら得られる見込みはなくなった。

■都合のいいシナリオ
安倍の通算首相在任期間は、すでに憲政史上最長となっており、今年8月には大叔父である元首相・佐藤栄作の連続在任記録2798日をも上回る。

「日本の憲政史上、最も長く首相を務めた」ことだけをレガシーに余力を残して退任し、
その後は、すでに実質的な安倍派である最大派閥・細田派=清和政策研究会の会長ポストに座る。
そして、責任のない気楽な立場で政権への影響力を維持しながら、
10年余は政治家としての「余生」を楽しみたい――安倍の頭の中には、そんな都合の良いシナリオがあった。

そのためには、安倍の政権運営を厳しく批判してきた元幹事長の石破茂が、自分の後継になることだけは避けなければならない。
「石破総裁」を阻止し、若い時からの遊び仲間で気心が知れている政調会長の岸田文雄を後継に据えれば、
しばらくは「院政」を敷くことができる――そう考えてきた。

党員投票が行われるフルスペックの自民党総裁選では、地方の党員票に強い石破が当選する可能性が出てくる。

それを避けるため、今年9月に東京五輪・パラリンピックが終了した後、
2021年9月の総裁任期切れまでのどこかで途中辞任し、両院議員総会での総裁選出で岸田総裁を実現する。
これが今年1月時点での「安倍シナリオ」だった。地方票が限定される臨時の総裁選であれば、
国会議員の間では極めて不人気である石破が、新総裁に選出される可能性は低い。

(中略)

■不測の事態

ところが、そこに新型コロナウイルス禍が降りかかってきた。
「花道」のつもりだった東京五輪が1年延期になったことで、上記の退陣シナリオは吹き飛び、ゼロから考え直す必要が出てきた。

「五輪誘致に成功した首相が、現職のまま開会式に出席したケースは、世界的にもほぼ例がないんだ」と安倍は折に触れて漏らしてきた。
東京五輪を首相として迎えたいという強い思いを抱いていることは間違いない。


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https://gendai.ismedia.jp/articles/-/72519