2020.5.21 06:15
https://www.sankei.com/smp/life/news/200521/lif2005210002-s1.html

 産経新聞が実施した知事アンケートでは、秋に新学年を始める「9月入学制」の導入について、賛成が反対を大きく上回った。教育分野のグローバル化促進を期待する声が目立つ一方、半数近くの知事は社会に与える影響の不透明さなどを理由に賛否を留保。政府が導入に向けた課題の洗い出しを進める中、教育行政の実務を担う自治体が直面する問題も浮かび上がった。

 導入に賛成したのは宮城や東京、京都など18人の知事。4月に導入を全国知事会に提言した村井嘉浩宮城県知事は「9月入学は国際スタンダード」とし、山本一太群馬県知事は「今回を逃すと永久に実現できなくなる」と強調した。

 反対は秋田、栃木、奈良、兵庫、大分の5知事。井戸敏三兵庫県知事は「現在の課題は学習機会の確保。制度の変更で解決できない」と訴えた。ただ、23人の知事は「社会全体に影響を及ぼす」(三村申吾青森県知事)などとして賛否の明言を避けた。

 9月入学制は欧米や中国などが採用しており、導入で留学が加速すれば国際競争力の向上につながるとされる。文部科学省によると日本人学生の留学先(平成30年度)として多い米国(全留学先のうち17%)やカナダ(同9%)などは9月入学の採用国だ。外国人留学生(令和元年度)も、6割超が中国やベトナムなど9月入学の7カ国から来日しており、国際交流の円滑化が期待できる。

 だが、文科省が政府に提示した検討案では、導入されれば来年入学の新小学1年生の急増などが想定されるとしており、学校現場が混乱する恐れもある。自治体には教員の拡充やシステムの改修といった重い負担がのしかかり、慎重にならざるを得ない事情がある。

 仮に9月入学が来年9月に全面導入されれば、現行制度で来年4月に入学予定だった児童に再来年4月に入学するはずだった約43万人(平成27年4月2日〜9月1日生まれ)が加わり、新小学1年生は前後の学年に比べて1・4倍の約143万人にふくれあがる。

 自治体は増加分の学習環境を確保するため、教員の増員や条例改正による定年延長、学校施設の改修などの追加業務が想定される。保育園では来年9月まで小学校入学待ちの幼児が在園することになり、待機児童が新たに生じれば、その受け皿の整備も必要となる。

 新入生の急増を回避する案として、もう一つ文科省が提示したのは、来年は平成26年4月2日〜27年5月1日生まれを入学させ、毎年13カ月分の児童が時期をずらしながら、5年かけて段階的に完全移行を目指すというもの。新入生を微増にとどめ、学校現場への影響を抑制できる。

 ただ、7割超の自治体は住民基本台帳システムに基づいて新入生の通学先を割り振っており、そのシステムを5年間、毎年改修しなければならなくなる。予算は自治体の負担となる上、「改修を民間業者に任せざるを得ない場合、国がコントロールできない」(同省幹部)という懸念もある。