政府、コロナ禍でも意見聴取会合3回
 2011年3月に史上最悪レベルの原子力事故を起こした東京電力福島第1原発では現在、高濃度の汚染水を浄化した後に残る放射性物質トリチウムを含んだ処理水が1000基を超えるタンクに保管中だ。今、この処理水を海や大気に放出処分するかどうかの方針決定に向け、政府が手続きを着々と進めている。新型コロナウイルスの感染拡大であらゆるイベントが自粛・中止される中でも「関係者から御意見を伺う場」と題する会合を4月以降3回開催した。「この非常時で開いても国民的議論にはならない」「そんなに放出を急ぎたいのか」と疑問の目が向けられている。(共同通信=小嶋大介)


 ▽ウェブ会議

 「今、国民の関心事は新型コロナだ。配慮をお願いしたい」。4月13日、福島県富岡町で開かれた第2回会合。出席した同県川内村の遠藤雄幸(えんどう・ゆうこう)村長は、開催の在り方に苦言を呈した。

 3回の会合のうち、座長の松本洋平(まつもと・ようへい)経済産業副大臣ら政府側メンバーが会場入りしたのは、4月6日に福島市で開いた初回だけだ。意見表明者は感染防止対策として交代で会場に入り書面を朗読。政府側はそれぞれの内容にほとんど質問することなく、ただ静かに座っていた。(中略)



 ▽焦り

 「ステイホーム」が呼びかけられ、国を挙げて感染防止に取り組むべき時でも立て続けに会合を開催するのには、政府の焦りがにじんでいる。今も増え続ける処理水。保管量は120万トンを超え、タンクの容量は限界が近いとされる。今年2月に有識者らによる小委員会が「海や大気に放出するのが現実的」との報告書をまとめており、政府に決断を促した。

 ではこの処理水とは何なのか。第1原発では、11年3月の事故で溶け落ちた核燃料(デブリ)を冷やすため原子炉建屋に注ぐ水や、建屋に流れ込む地下水が汚染水となる。それを浄化処理したのが処理水だが、トリチウムだけは除去できず残留している。

 トリチウムは水素と化学的性質が似ており大気や雨、海水、水道水にも含まれる。他の原発でも運転に伴って発生し、濃度や量の上限を決めて海などに放出している。放射線は弱く、経済産業省は「紙1枚でも遮ることが可能」と説明する。

 だが、第1原発と他の原発とを同一視はできない。第1原発の処理水は、デブリに触れた水。海洋放出を支持する更田豊志(ふけた・とよし)原子力規制委員長も「損傷した炉心を通った水なので、いくら浄化したと言っても心理的な抵抗があるのは当然だ」と理解を示す。

 ▽不信感

 「放出されれば二重の風評被害を生む」との強い懸念が地元では尽きない。福島の漁業は、今だに漁場を自主的に制限するなどし安心、安全に注意を払っている。処理水の問題は福島だけではない、国民的議論にしてほしい、との願いがある。

 18年夏には、処理水にトリチウム以外の放射性物質が放出基準を超えて含まれているのも発覚したため、東電への不信感はくすぶったままだ。

処理水タンクの容量は限界に近づいているとされる
 東電の試算によると、処理水の保管容量は22年夏に限界となる。仮に放出するとしても準備工事などに2年程度かかるため、逆算すれば今夏ごろには処分方針を決める必要がある。関係閣僚らも記者会見などでたびたび「先送りはできない」と発言している。

 海洋放出に韓国が反発していることも踏まえ、以前は「国内外の影響に配慮すれば、方針決定時期は東京五輪閉幕後にせざるを得ない」(与党議員)との見方があった。だが五輪の1年延期が決まり、「時期を気にする必要はなくなった」との声が聞かれ始めた。

 ▽「丁寧」か
(以下略)

2020/5/21 07:30 (JST) 全国新聞ネット
https://www.47news.jp/47reporters/4832026.html