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乙武 洋匡のネット批判に対する名言

誰もが自由に書き込みできる匿名掲示板「2ちゃんねる」において、僕は不思議と愛されているようで、
これまでも何百回となく殺されている。だから、今回だって特に驚きはしない。いつものことだから。

 そりゃ、ヘコむ。いい気持ちはしない。その書き込みを見た友だちは、気遣いの言葉をかけてくれる。

 「そんなの気にするなよ」

 「無視するに限るよ」

 彼らの忠告はありがたいけれど、僕はあえて気にするようにしている。せっかくボロクソに書いて
もらっているのに、無視するのはもったいないから。

 読者やファンの人から送られてくるメールや手紙は、そのほとんどが僕を誉めそやすものだ。
街を歩けば、「いつも観てますよ」「勇気をもらってます」。若い女の子にキャーと言われれば、
やっぱり悪い気はしない。仕事先にはスタッフがいて、いつも気を遣ってもらっている。暑くないか。
寒くはないか。のどが渇いてはいないか。黙っていても、快適な環境が自然と用意される。

 若くして世に出てしまった僕に強く物が言える人がいないのは、僕にとって大きな不幸だと思っている。
僕はそう強い人間ではないから、時折、このまま傲慢な人間になってしまわないだろうかと不安になることがある。
そんなとき、僕はパソコンを開き、「お気に入り」のフォルダから「2ちゃんねる」を選び出す。僕を悪く言う人々の
書き込みを読む。薬みたいなものかもしれない。それまで持っていた自信や自尊心といったものが一気に
崩れ去り、代わりに謙虚な心が入り込む。泣きたくなることもある。でも、それくらいがちょうどいいと思っている。

 彼らの文言は、あまりに心なく、的外れなものが多い。けれども、時に足元を見つめさせてくれるものもある。
「あんな文才のないやつが」と書かれれば文章を磨くことに貪欲になれるし、「障害があること以外に
何のウリもない」と指摘されればウリを作ろうと必死になれる。

 匿名だからこそ好き勝手に書けるけれど、匿名だからこそ本心が出る。僕をよく思っていない人たちの
存在を知り、意見を聞くことで、見たくない自分の姿が見えてくる。そこから目をそらすことの方がよっぽど
簡単でラクなことだとはわかっているけれど……。

 名誉毀損をちらつかせながら彼らを黙らせることは、確かにできるのかもしれない。
でも、それでは単に彼らの口を閉ざしたに過ぎない。誹謗中傷する人々の気持ちを少しでも
変えるよう努力する。それは、僕にとって意味のないことではない。