北海道内で急増するインバウンド(訪日外国人)へのサービスや消費を支えてきたのが、外国語で接客する働き手たちだ。しかし新型コロナウイルス感染の影響で旅行者が激減し、非正規を中心に雇用は一気に不安定になった。4月末で百貨店の中国語通訳の仕事を雇い止めになった30代女性は「弱い立場の労働者を切り捨てないで」と訴える。【山下智恵】

 札幌市内の百貨店の化粧品売り場。そこの外国人専用カウンターが、女性の仕事場だった。コロナ感染拡大前はいつも混雑し、150人を接客する日もあった。特に中国の旧正月(春節)は目も回る忙しさだったが「日中友好にも興味があった。観光を介して両国の橋渡しができるのがうれしかった」とやりがいを感じていた。

 中国語に興味を持ったのは、両親が営んでいた下宿に中国人の技術者が住んでいたのがきっかけだ。母国にいる妻から毎日のようにかかってきた国際電話を取り次ぐうちに勉強の意欲が高まり、大学生の19歳の時に1年間、語学留学した。

 卒業後、一度は通訳でない仕事に就いたが、勉強は続け、インバウンド需要が高まった2年前に「今なら好きなことを仕事にできる」と転職を決意。大手百貨店の子会社の人材派遣会社に登録し、化粧品会社に派遣される形で働いていた。

 だが、今年に入り状況が一変。中国人の団体旅行が中止になった1月27日以降、客は激減し、3月は月12回のシフトが10回に減った。4月に入ると「今月中旬には今の職場での仕事がなくなる」と告げられ、さらに別の派遣先の面接も中止に。国が7都府県に緊急事態宣言を発令した翌日の4月8日、派遣元から「退職手続きを行います」と、月末での雇い止めを通告するメールが届いた。

 政府は雇用維持のため、企業が従業員に払った休業手当を補助する雇用調整助成金の日額上限を8330円から1万5000円に引き上げるなど対策強化を進める。だが女性によると、派遣元では正社員の雇用が維持されたのに、派遣社員は全員契約更新できなかったという。「都合よく切り捨てられる、非正規労働の本性を見た」と感じずにはいられない。

 今後、雇用保険の失業給付を申請する予定だが、1日4000円程度では職探しの交通費などを考えると心もとない。通訳のスキルを生かせる需要回復も見通せず、不安が募る。個人加盟できる「札幌中小労連・地域労働組合」に入り、団体交渉で雇い止め撤回を求めている。

 同労組の鈴木一副委員長は「国や自治体は支援策を打ち出している。雇い止めや解雇は、そのセーフティーネットからも外すこと。雇用維持を図るのが使用者の責任だ」と指摘する。

毎日新聞2020年5月31日 08時23分(最終更新 5月31日 08時23分)
https://mainichi.jp/articles/20200531/k00/00m/040/017000c